【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

蒼人一色の日々16

「カレーうどんもあり? あ、お正月の切り餅が残ってる」

 何なら、カレー月見うどん餅入りというスペシャルにしてあげよう。

 一時間近くあと、突如インターフォンが啼った。

「え?」

 灯里は不安げな顔になった。

 彼女の部屋は二階だ。車椅子の蒼人が登れるはずがない。
 隣の住人が部屋を間違ったのだろうか。
 用心しいしい灯里はドアの覗き窓から確認した。

「蒼人っ」

 信じられないことに蒼人は立っていた。
 両手に松葉杖をついている。

「おす」

 蒼人は確かにひげびっしりだった。
 おまけに目の下にクマを飼っていたのだが、灯里の大好きな笑顔を浮かべてくれた。

「入って」

 灯里は震える声で彼を室内にいざなった。
 いいたいことがあるのに、なにから話していいのかわからない。

「灯里」

 背後から抱きすくめられる。ガラン、と杖の倒れた音が妙に響いた。

「抱きたい」

 飢えた声で乞われた。

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