【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

連れ出したくて、付き合いたかった7

「あのね、海で遭難して海保の人に救助されたの」

 結局、ものすごく端折った。
 途端、ものすごく食いつかれた。

「え、いつ! どこの海域! 美咲さん自身がっ?」

 海野の勢いに軽くひいたが、答えようと思った。
 一年前、伊豆諸島沖で。

「……」

 口がぱくぱくするだけで、言葉が出てこない。

 海野が灯里の状態に気づいた。
 車椅子で近くにきてくれる。
 が、互いの足がぶつかってうまく支えられないことに焦れたのか、海野はベッドに飛び乗ってきた。

 はずみで車椅子がゆっくりと倒れ、灯里は傾いだマットレスのせいで海野によりかかる体勢となった。

 灯里の耳元ではっきりと声が聞こえてきた。

「もしかして、PTSDになったりしている? 喋んないでいいよ。ゆっくり吐いて」

 灯里の口に手のひらをあてて呼吸を誘導してくれた。

 彼女が落ち着くまで海野は灯里の背中を撫でてくれていた。
 灯里の背中の起伏が穏やかになった時。

「それでファンになったのか」

 ぽつりと耳元に落とされた海野の言葉に、灯里はこくりとうなずいた。

「ずっと話しかけてくれて、笑顔がホッとして。『彼』を見つけたら、お礼を言いたかったの」

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