【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

合コン当日7

 クレームに発展することも多いため、鶴亀では『間違い電話担当』通称『まちたん』がまず入電をとる。
 いきなり怒られることも多いので、当番にあたると一日中憂鬱になれる架電の一つである。

 そのリストを自分は一つ増やしてしまったわけだ。

 ああああ。
 みなさま、ごめんなさい。
 今度の間違い電話担当――通称『まちたん』――のとき頑張るから許してええ。

 灯里は心の中で今日の『まちたん』に詫びた。

 普段リターンしてこないくせに、間違い電話だと折り返し率がいいのはどうしてなんだろう。
 忘れてくれていいんやで、と毎回考えてしまう。

「ま、今回は『間違いでした』って言えたんでしょ? 海保だから出動はないと思うけど、一応連絡しておくわ」

 清水の言葉に現実に引き戻された。

「ううう、すみませんー」

「大丈夫よ。海保から事情聴取が来たら、美咲ちゃんを付き出してあげるわ」

 ウインクを寄越されてしまった。

 どこが大丈夫なのか。
 血も涙もない上司とは、彼のことを言うのだろう。

「ひどい、女の友情ってそんなもんなの」

 灯里が抗議しても、清水は気にすることなくデータ更新者に自身の名前を入力していく。

「僕、男だもーん。イイじゃない、きっかけになるわよ?」

 灯里はふて腐れた。

「そんな出会い、いらない」

「贅沢ねー。さ、登録済んだから、戻ってイイわよ」

 灯里は、コスメのインフルエンサーに対して攻撃的な気分だったがすっかり頭が冷えた。

 彼女は顧客と喧嘩することもなく、問題なく業務を遂行した。
 しかし、その日は神経質なほどに電話番号を気にして疲れてしまい、休憩時間はひたすらに眠ってしまった。

 勤務時間が終わればとうとう、合コンである。
 灯里と清水のほか、飲むのが好きな女子達が数人。

 皆、相手がドタキャンしようが相手がくだをまこうが、マイペースで酒を楽しめる猛者ばかり。

「ほら、美咲ちゃん! メイク直して。いざ、出陣よ」

 清水に休憩室に引っ張られてしまった。

 休憩室には家電のほかメイク道具も一式揃っている。
 帰りに出かけようとする女子は灯里達だけではないらしく、彼女が来ると皆、ざわついた。

 皆、灯里の前職を知っておりメイクしてもらいたがっているのだ。

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