【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

合コン当日5

「むーちゃん。データ、どこまで開示OK?」

 灯里は上司に確認する。

「研究所のデータ結果はホームページにも掲載されているから大丈夫よ」

 誰でも閲覧できる根拠がなければならない。

 鶴亀通販の理念は『フェアトレード』、『消費者目線で、いいものを』がテーマである。

 目利きのバイヤーが世界中を回って集めてきた良品を通信販売している。
 保守もきちんと対応するし、生産者を大事にしている。
 そのため、競合商品と比べてお高い。

 けれど、スタッフが自信を持っておすすめできるものばかり。
 コールセンターにはスタッフが体感できるよう商品のテスターがあるし、研究所で耐久テストや成分分析を行い、開示済みである。

 引き換え、インフルエンサーが良いと主張しているメーカーは研究結果を公表していない。

「突つくのは、この辺かな」
「美咲ちゃん、よろしく」
「ラジャ」

 清水と対応方針を確認してから席に戻ると、さっそく顧客に架電する。
 相手の電話番号の呼び出し音を聞きながら車椅子の男性のことをぼんやり想ってしまった。
 と。

「海上保安庁です」

 え?


 自分は今、北海道にかけたはず。
 しかも、女性宛にかけたのだ、なぜ男性が出る。

 固定電話だから家族が出るということもあるだろうが、データ上女性は一人暮らしのはず。

 たまたま、男性が女性宅に泊まっていて、たまたま電話に応じた?

 どういうことだ。

 予想外の返答に、灯里は慌ただしく電話と客の連絡先を何度も確認した。

 耳へは相手から要件を促したり、無音なので電話口で喋るようにとの言葉が飛びこんでくるが、パニックのあまりスルーしてしまった。

 おまけに、無言のまま電話を終わらすこともしていない。

 とうとう膠着状態をなんとかするべく相手の男性が叫んだ。

「もしもし? こちらは海上保安庁です、聞こえていますか!」

 どうして……。必死で原因を探す。

「あ」

 ゼロ発信を忘れてた!

 コールセンターは交換台を通すから、最初に「ゼロ」を押さねばならない。

 合計で、携帯なら十二桁、固定電話であれば十一桁を押すのだ。

「事故ですか、事件ですかっ」

 灯里が呆然としている間に電話の向こうはどんどん切迫してくる。
 ゴクリ。

「ま、間違えました……」

 それだけ告げると、灯里は電話を切った。

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