【電書化】運命のイタズラ電話に甘いおしおきを

水田歩

合コン当日3

 あちらも出会いを求めているのだろうが、いかんせん現場優先の熱い男達なのだ。

 まして灯里が出会いたい海上保安庁の職員達の主戦場は海。
 緊急で出航してしまうこともあり得る。
 航行している海域によっては電波が途切れるところもあるのでリスケジュールすら難しい。……そういった事情を理解してくれる女子でないと、なかなか代理をお願いしにくい。

「参加するしかないなー」

 隅っこでソフトドリンクをちびちび飲むことにしよう。
 あれこれ考えまくって何度もシュミレーションを繰り返した想定問答集も、使わないままになりそうだ。
 
それでも、普段はしない女性らしい格好をしようとクローゼットの中身を確認する。

「じゃないと、むーちゃんに脳天チョップされる」

 同期であり上司の清水は、何かと灯里を気にかけてくれる。
 普段の灯里がいかに美容を怠けているかを知っている彼は合コンに参加する場合、油断することを許さない。

『美咲ちゃんは頑張れば出来る子でしょ? 普段のボケボケで行くなんて、許さなくってよ!』

 愛妻と溺愛する我が子がいる、灯里からすると勝ち組の清水は言いたい放題だ。

 灯里は顔写りのいい、白地にストライプ柄のシャツワンピースを取り出した。
 ややスポーティであるが、ハーフアップにして喉元にペンダントをつければそれなりに清楚なはずだ。

 下着を選び、服にあったメイクはナチュラルにしようと決める。

 靴は履き慣れているものを丁寧に手入れする。
 ……昔、デートの時に気張って新品の靴で行ったことがある。
 結果は靴擦れで楽しめないまま終わってしまった。
 やっぱり自分は水棲生物だ、陸上には向かない……まで考えて、ハッとなる。

「もう、海からは卒業したんだもの」

 しかし、人魚から人間になった姫が歩くたびに足がナイフで刺されるような痛みを感じるという童話のあのくだり。
 じつは当時のハイヒール文化を揶揄したものなのだろうか。

「なぁーんて、ね。作者さんが生きてた頃の時代背景なんて知らないし」

 ハイヒールを履いても灯里のように頭まで痛くなるという人間はマイノリティーなのかもしれない。

「でも! 見栄は張らないっ」

 ……正しくははれない、のだが。

 このコーディネイトなら、なんとか上司から及第点をもらえそうだと確認をして鏡の前を離れた。

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