僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

新年☆

 新年を迎えて、冬休み中に薫さんと2人で車で清水さんに会いに東京へ向かった。
 1月はとても冷えたけれど、私達の心は氷を溶かしてしまう程温かかった。

 吉祥寺の個室ランチもやっているすき焼き屋さんで、清水さんがお祝いをしてくれた。
 清水さんの彼女は私の2個上で、ショートカットが似合うとても可愛らしい桃さんという女性だった。ハキハキとしているけれど控えめでもあり、読書が好きで、私が好きなれんげ荘シリーズのファンという事もあり、話が弾んだ。
 話してみた感じ、とても穏やかで優しい女性。清水さんとお似合い。
 出会いは清水さんが通う読書カフェの店員さんだったらしい。コーヒーを作る彼女に、清水さんがひとめぼれして、清水さんから話しかけたとか。
 お祝いに、薫さんがお会計を持ってくれた。清水さんは、ありがとう、とニカっといつもの笑顔で笑った。

「清水さんと桃さん、お似合いでしたね!」
「うん。清水にも幸せになってほしいね」
 清水さんたちと別れてから、海が見たいと言った私の要望に薫さんが応えてくれて、車で横浜の大さん橋まで来た。
 夜の海は静かに波打って、潮の香りがする。潮風が冷たいけれど、2人で手を繋いだ。薫さんは冬になると、私がプレゼントした手袋をしてくれる。
 夜の20時でも恋人たちが多く、芝生に2人で腰掛けている人たちもいる。
 寒いね、と言いながら2人でくっつく。

 すごく、幸せな毎日。
「多分私、数年後に今日の記憶を思い出せそうです。
 薫さんと出会ってからのこととかも」
「僕も。映子ちゃんと出会ってからは、その時との時の瞬間を色鮮やかに思い出せるよ。あの時映子ちゃん、こうゆう洋服を着ていて、こんな表情であんなこといったなー、とか」
 きっと薫さんにも、私の記憶が焼き付いてるんだろうな。
 他の恋人たちに紛れて、私達もそっとキスをした。

 横浜の夜景が見えるホテルにチェックインする。
 広いフロントは大理石調で、内装はグレーの壁紙に金細工で複雑な模様を描いた高級感があって天井もやけに高く、扉もセンスの良い金細工施されていて、エレベーターまでの廊下に立っている柱の1本1本は全て、下から天井ま曇り一つない輝く鏡でできている。
 なんだか高級感に、気後れしてしまう。
 部屋の壁にもグレーに金細工でできた模様が入ってる。カーテンを開けると、大きな窓から横浜が一望できた。思わず、綺麗、と呟くと、薫さんが頬にキスをしてくれた。
 次にバスルームを見ると、ガラス扉の向こうに猫足の大きなバスタブが付いていた。アメニティも女性に人気のブランド物で充実していた。
 思わず焦って薫さんに言う。
「薫さん、このホテル、高かったんじゃないですか?」
「え? それでさっきから縮こまってたの? 大丈夫だよ、そうでもないから。この間、NISAで少し良い思いしたし。寛いでね。
 普段、僕と映子ちゃんはデートはほとんど家でしょ? 外食とか極稀にしかしないし、いつも自炊してるでしょ? 家で一緒にDVD観たり、たまにゲームしたり。デート代とか、全然かかって無いんだよね。映子ちゃん節約してくれてるから、いい奥さんになってくれるね。だからせめて、遊びに来た時は良いとこ泊まらせてあげたくて。嫌だった?」
 そういえば薫さんに、私が就職してから積立NISAの事相談したら、やけに詳しかったっけ。
「ありがとうございます! 薫さん大好き!」
 勢いよくばふっと音を立てて、滑らかな肌触りの良い真っ白なシーツでふかふかのダブルベッドに頭からダイブすると、
「そこは、僕に抱き着いてくれるところだよ、映子ちゃん」
 と、薫さんが笑った。
「えへへ。ふかふかなお布団をみたら、ついつい……」
 枕に埋めた顔を薫さんに向ける。
 薫さんが近づいてきて、私の上に覆いかぶさる。
「僕も映子ちゃん大好き」
 右耳の裏に小さく音を立ててキスをされた。

 私は仰向けに寝がえりを打って、薫さんと向き合う。
 少し見つめ合った後、薫さんが優しくキスを落とす。
 彼の柔らかい唇が、私の唇を優しく何度も食む。私の唇と唇の間から、彼の熱い舌が滑り込む。角度を変えて、口の至る所に舌を這わせられ、口内を深く、深く犯される。
 息も絶え絶えで、ちょっと待って、と言おうとしてもその言葉を紡ぐ隙間に舌が這う。彼が両腕で力強く私を抱きしめる。私も彼を両腕でぎゅっと抱きしめる。
 互いが互いを求める気持ちが強くなる。
 2人でコートと服を脱ぐ間ももどかしかった。薫さんが素早く先に自分の全ての服を脱ぐと、私が脱ぐのを手伝ってくれた。こうしている時間も惜しくて、荒い息でキスを交わしながら早く服を脱ごうと思えば思う程、手元がもたつき手間取った。
 2人とも一糸纏わぬ姿になった時、薫さんが私をベッドに押し倒した。深く荒いキスをしながら、薫さんの手が私の身体を這う。胸を揉む指に、力が入っている。
 私も薫さんの頭や首、背中、至る所を手繰り寄せるように撫でる。
 息つく暇もなく深いキスで、2人は更にヒートアップしていく。
 薫さんの手が這い回る。
 私の唇から薫さんが唇を離し、唇同士から艶めく糸を引いたまま言う。
「愛してる……」
「私も、愛してます、薫さん」

 キスが深くなる。
 薫さんが私を求める。私も薫さんを求める。

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