僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

収穫

 昼休憩を終え、席に戻ると、同じ人事部でいつも飴をくれるみんなのお姉さん的存在の田畑さんが声を掛けてきた。
「柏木さん、悪いんだけど、今日契約社員さんがお休みだから、代わりに柏木さん、医務室の清掃してきてくれる? 清掃道具は全部医務室に揃ってるから。ほんとごめん!」
 田畑さんが胸の前で両手を合わせた。
「はい! 了解致しました!」
 新入社員ですから! こき使ってくださいとも!
 私は早速社員手帳で医務室の位置を調べる。
 ……ふむふむ、6階の奥ね。

 実際に6階の奥の廊下へ進むと、電気が付いていなかった。真っ暗で、なんだか不気味……。周りは備品室や旧会議室で、普段使われていないようで、人が居ない。
 節電って訳ね、なるほど。
 暗い中手探りで電気を付けると、一番奥の部屋に医務室と書かれた札が見えた。
 恐る恐る中に入って電気を付けると、しんと静まり返っており、むっとした熱気がすごい。急いで蛍光灯スイッチの隣にあるエアコンのスイッチを入れる。
 8畳程の広さで、奥に白いシーツが敷かれたベッドが一つと、その向かいに水道。中央に折り畳みテーブルとパイプ椅子が一つあって、端の方に掃除機と青いプラスチックバケツにかかった使い古された雑巾と、綺麗な雑巾がそのまま置かれている。簡素な部屋だった。

 よし、早くお掃除終わらせちゃおう!
 私は掃除機をかけ始めた。

 医務室と言っても、あまり使う人はいないだろうな。わざわざ6階の人気のない医務室まで来なくても、各事務所に救急箱が設置されてるし、横になりたい人は畳の休憩スペースに向かう。
 存在を忘れ去られた部屋……ん?
 床を雑巾掛けを終わらせてさん拭きをする頃には、頭の中でイメージが固まる。
 清掃を終えると、部屋の空気が見違えたような気がした。

 事務所に戻り田畑さんに掃除が完了した旨を伝えると、彼女が飴をくれた。お礼を言うと、よく頑張ったね、と頭を撫でてくれた。

 戦利品を片手に席に戻ると、長瀬先輩は電話対応中。
 ふふ。長瀬先輩、これ聞いたら喜ぶだろうなあ。
 長瀬先輩が電話を切ってパソコンに向き合うタイミングで、声を掛けた。

「先輩、良い場所見つけました!」

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