僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

約束

 「柏木さん、今日のおかずはハンバーグなんだね。昨日の夕飯で作ったの?」
 長瀬先輩がのんびりとした口調で自分のお弁当の包みを広げながら聞いてきた。
「いえ、3日前にハンバーグだったんです。その時、お弁当用に小さいの作って冷凍してました」
 長瀬先輩が、お弁当箱の蓋を開け、私がちらりと中を見ると、有名な口がバッテンの白いうさぎのキャラ弁だった。
「へえ。それは随分と手際が良いね」
「手際が良いのは長瀬先輩です! 今日も可愛いお弁当ですね!」
「しーっ! 周りに聞こえる!」
 長瀬先輩が焦った様子で人差し指を口元に当てて言った。

 そんな、ほのぼのしたランチタイム。

 お弁当を半分食べ終わった頃、長瀬先輩は私のお箸を持つ手をじっと見つめる。
「ところで柏木さん、いつも右手の薬指に指輪してるね。彼氏から貰ったの? あ、ごめん、今の発言はセクハラに入っちゃうのかな?」
 長瀬先輩が少し焦った様子で聞いてきた。
「え? あ、いえ、大丈夫ですよ、彼氏から貰いました」
 会話として続けて、長瀬先輩は彼女さんいらっしゃるんですか、という質問をしようと思ったけど、口をつぐんだ。いないって知ってるから。
「そっか……。俺も良い子と付き合いたいな」
 長瀬先輩が、耳が無くなったうさぎを見ながら呟いた。
「あ、私の同期の茜ちゃんって知ってます? あの子良い子ですよ!」
 実は茜ちゃんが前に、頬を赤くして「映子ちゃんの上司カッコいいね」と言っていたのを思い出した。ついでに茜ちゃんも今フリー。
「ああ、いつも柏木さんが一緒にお弁当食べてる子ね。あの子も良い子そうだよね」
 ん? 長瀬先輩のこの反応は、まんざらでもない感じ?
 先輩は興味がない人や話には、「そうなんだ」って、仏のように穏やかな表情で流すから。薫さんにもそういった一面があるから、なんとなく察してただけだけど。
「今度一緒にお弁当食べてみましょうよ! 私、茜ちゃんにそれとなく言っときます」
「え、でも……、俺、25歳だよ? 映子ちゃんの同期なら、二十歳でしょ? 歳の差とか、大丈夫かな?」
 先輩が尻込みした。
 そんな先輩に、私はさらっと爆弾発言。
「私の彼氏は先日お誕生日を迎えて、無事29歳になりました。愛に歳の差は関係ありませんよ。茜ちゃんも、先輩のこと悪く思ってませんし。むしろ、キャラ弁素敵だねって褒めてました」
 茜ちゃんが、ふと言ったあの一言を本人に承諾も得ずに伝えるのは気が引けたから、なんとなくふわっとした感じで伝えてみた。
「え? 柏木さんの彼氏って、俺より年上だったんだ! 道理で柏木さんて、大人びてるもんな。そっか。ならよかった。じゃあ、今度一緒に食べよう。お弁当会だね。ありがとう! 約束ね!」
 長瀬先輩が笑顔で言った。

 その日就業してから、茜ちゃんにラインで伝えると、

『本当に!? 映子ちゃんありがとう!
 すごく嬉しい! 喜びの舞を踊ります!
 楽しみにしてるね! お弁当、気合入れて作らなきゃ!
 と言っても、長瀬さんのお弁当には敵わないけど(笑)』

 と、猫が躍っているスタンプ付きで返信が来た。
 お弁当会、私も楽しみ。

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