僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

 日曜日、いつものように僕の家で映子ちゃんと寛いでいた。
 季節はすっかり秋になっており、半袖の人もまだ少し残ってはいるものの、
エアコンを付けずとも涼しくなってた。

 今日の映子ちゃんは、どうも様子がおかしい。一緒に映画を観ていても、話しかけても、どこか上の空だ。どうしたのだろう。
 いつもの恒例の夕飯作りの前に、隣でソファに座る彼女に問いかける。
「映子ちゃん、どうかした? 今日一日、ずっと上の空だけど……。何かあった?」
 僕の言葉に彼女は目を動かしてハッとしたようにこちらを向く。
「……」
 彼女の瞳がどんどん潤んでいく。やがて目に溜まりに溜まってついに溢れ出した涙に、僕は思わず慌てる。
「どうしたの? 大丈夫?」
 彼女が泣いたのは、映画鑑賞以外では初めてだった。
「薫さん……。ごめんなさい……!」
 彼女は「ごめんなさい」を何度も繰り返し呟き、やがてしゃくりあげた。
「どうしたの? 何も謝られるような事なんて、されてないよ? 話してくれなくては、わからないよ、大丈夫、話してごらん?」
 そう優しく言いながら彼女の背中をそっとさすると、彼女は僕の目を真っすぐ見て言う。
「ごめんなさい。好きな人ができました。私と、お別れしてください」
 弱弱しい声だが、しっかりと意志が宿った眼差しだった。
「えっ……? そんな、どうして? 好きな人って、だれ? 僕とずっと一緒に居てくれるんじゃないの? 僕から絶対に離れない、大好きっていってくれたじゃないか!」
 突然の事態を飲み込めないけれど、映子ちゃんがもう僕とは一緒に居れないと言っている事だけは解り、そう言いながら、次第に僕の目からも涙が溢れ出した。
「薫さん……、本当に、ごめんなさい……。」
 そう言って両手で涙を拭う彼女を、両手で抱きしめる。
「嫌だ! 絶対に離さない! 離すもんか!」
 彼女は余計にしゃくりあげる。
「ごめんなさい……」
 映子ちゃんが僕と別れて、他の男と付き合うだなんて、想像しただけで吐き気がする。
 喉に酸っぱいものが込み上げた。
 胸の中が、がぐしゃぐしゃになる。ぐしゃぐしゃになった胸に、やがて泥水が注がれる。
 僕たちが付き合ってから、彼女のペースに合わせてゆっくりと前進していたつもりで、ずっと我慢していたのに。宝物のように大切にしてきた。僕のこの今までは何だったんだ? そんな僕の気持ちなんて足蹴にして、あっさり他の男に抱かれるのか?

 ならば、いっその事。

 彼女の身体を真っ黒なソファに両手で押し倒し、唇を奪う。
「か、かおるさん! やめ」
 そう口を開いた彼女の唇の奥へ、自分の舌を無理やり捻じ込む。
 映子ちゃんの白く細い両腕を自分の左手で、彼女の頭の上で抑え込み、右手で彼女の身体を無理やり弄る。
 映子ちゃんは泣いている。
「かおるさん、」
 ダメなんて言わせない。彼女の口を僕の唇で覆う。
 僕もまた、泣いていた。

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