僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

誓い

 映子さんの大学生活も、若葉が茂る6月になると落ち着いてきていた。梅雨明けの初夏の気温がぐっと上昇し始める。
 映子さんは短大なので授業や課題で大変そうだが、それでも忙しい中時間を作ってくれて、土日のどちらかは必ず会っていたし、ラインや電話のやりとりもしている。

 日曜日に映子さんとカフェへ向かう車内で、映子さんが聞く。
「薫さん、もうすぐお誕生日ですね!
 どこか行きたいところとか、したいこと、欲しいものはありますか?」

 映子さんの身も心もほしいです……。そんな本音は言えない。
「お祝いしてくれるの? ありがとう。
 う~ん、どこがいいかな。あ! 映子さんの手料理が食べてみたいかな!」

 映子さんは実家に住んでいるのでもちろん家には行けないし、僕が1人暮らししている家にも、彼女はまだ遊びに来たことがなかった。

 彼女は少し考えた後、笑顔で僕の望み通りで100点満点の解答を口にする。
「じゃあ、薫さんのおうちに遊びに行って、2人でゆっくり過ごしますか?
 薫さんちでお料理作ります!」
「ありがとう! 楽しみにしてる!」
 僕の心が浮足立つ。
 いつも以上に部屋の掃除を念入りにしておこう。


 正直に言えば下心はてんこ盛りだが、手を出す気は無い。彼女、まだ大学生だし。
 清水なんかはラインで、
『高校も卒業したんだろ? 未成年じゃなくなったんだろ? だったら答えは一つだろ!
 男女の真実はいつも一つ!』
 なんて、名探偵の少年のスタンプ付きで軽口を叩いていたけれど。
 映子さんは男性と付き合うのが初めてと言っていたし、彼女のペースでゆっくりと歩んで行きたい。
 彼女が嫌がることはしたくない。嫌われたくないし。
 なんて僕が心の内をぐだぐだ言うと、清水は、
『トンビに油揚げ掻っ攫われても知らないぞ!
 ただ、薫がそこまで言うならば、ここはひとつ、大人の余裕を見せつけるんだ!
 彼女、俺でも素直で可愛い子だと思ったよ。そんな良い子を、同い年の盛んな男がほっとくと思うか?
 だったらこっちは、同い年にはない大人の余裕という武器を使うんだ!』
 と、札束をばら撒く猫のスタンプ付きで、半ば楽しんでいるであろう返信を寄こした。
 言われなくてもそのつもりだが、いかんせん僕は、こと映子さんになると、どうにも余裕が無くなってしまう自分を反省。

 こうなったら、誕生日に僕の部屋で、大人の余裕というやつを、見せつけようじゃないか!
 新緑で希望に満ちた季節に、そう心に誓った。

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