僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

お誕生日

 大学生になる前の春休み、僕たちは今まで我慢してきた鬱憤を晴らすかの如く、思いっきり遊びに出かける。
 某夢の国の海のテーマパークで、お揃いの耳付きカチューシャを付けて写真を撮ったり、街中でも堂々と手を繋いで歩いたり、念願の美術館にも行き、少し絵画の解説もした。そこに隣接している喫茶店でスプーンで食べさせ合いっこをしたり、少し早い花見で公園のベンチで膝枕をしてもらったり。
 映子さんは僕がクリスマスイヴに送った指輪も、堂々と付けている。
 帰り際には必ずキスをした。深く、何度も。またすぐ会えるのに、一瞬の別れですら惜しむかのように。

 卒業式の日に予め用意して戸棚に隠していた大きな花束は、彼女が美術室を後にしてから、体育館のパイプ椅子や幕の片付けを終えたとこで、渡し忘れた事に気付いた。
 家に帰ってから彼女にラインをすると、『少し抜けてるところも好きです』とほっぺたが赤いうさぎが手足をじたばたさせて笑っているスタンプ付きで、ラインのやりとりでは初めて「好き」という言葉を貰った。

 2人とも、はしゃいでいる。
 在学中、彼女はワガママを言ったことがなかった。
 好きって言ってほしい、手を繋ぎたい、抱きしめたい、キスがしたい、身体を重ねたい、愛してると言ってほしい、私のことだけみてほしい。そういった類の事は、一切言わなかった。
 もし在学中に彼女から言ったら僕が困る事を、彼女なりに理解していてくれたのだろう。
 正直に言うと、僕の方が欲望が多かったし、深かったように思う。クリスマスイヴ前のケンカも含めると、これじゃあどっちが大人かわからない。

 3月31日、彼女はようやく18歳の誕生日を迎える。
 夜景が有名な公園内にあるレストランで、街の夜景を見ながら食事をした。
 ピンクの花が付いた小ぶりなピアスを彼女に送ると、
「ありがとうございます! ピアスの穴、開けますね」
 と映子さんは、はにかんだ。
 レストランから出た時に、少し公園を散歩しようか、と提案すると、彼女は少し早い桜の花が咲いたようなとびきりの笑顔で頷いた。

 夜の公園は、少し肌寒い。
 お花見にはまだ少し早く、あまり人気が無い。
「寒くない?」
「薫さんの手が温かいので、大丈夫です」
 夜景が展望できる場所に着くと、彼女は目を輝かせる。
「わぁ……綺麗ですね……!」
 僕は、夜景に見惚れる映子さんの横顔に見惚れた。
「ちゃんと言ってなかったから、言わせて。
 僕と、お付き合いしていただけますか?」
 彼女が夜景から僕に、パッと向き直る。
 その顔は、目を丸くして両手で唇を押えている。
 次の瞬間、桜が満開になったかのような笑顔になった。
「喜んで!」
 初めて彼女の方から、僕を力いっぱいぎゅうっと抱きしめてくれた。
 僕も優しく抱きしめ返して、唇を重ねた。

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