オフラインで打ち合わせ 〜真面目な神絵師との適切な距離感〜

穂祥 舞

7 はじめまして④

 小山内はビールに口をつけてから、小さく溜め息をついた。
「私スキルマーケットでサンプルに裸絵出してるでしょう、だからレイプシーンの依頼って稀に来るんですよ……やっぱり嫌なんですよね、構図的にどうしても美しく描けないし、暴行を受けるキャラクターが可哀想になっちゃう」
 玲はそれを聞き、優しいのは彼のほうだと思う。彼の絵の独特の美しさは、こういうところから来ているのかもしれない。自分の描く全てのキャラクターを大切にし、愛情を持って接する。
「よくわかります……やっぱりヒロさんに頼んでよかった」
 玲の言葉に、小山内は照れたように少し俯いた。その反応が意外で、可愛いと感じた。歳上の男性に抱くべき感情ではないのかもしれないが、玲の思いを的確に表す言葉が、他に見つからなかった。
「ヒロさん、差し出がましいかもしれないですけど、R18OKでも描けないものはありますって風にすればいいと思いました」
「……ほんとですね、考えます」
 ビールが3杯目になった辺りから、二人は大真面目に「仕事」の話を始めた。現在連載中の女性向けの大正ロマンは、もう最終回の目途が立っている。新作はどの時代を舞台にするといいか、方向性を決められたらと、玲は考えていた。
「あ、その前に……再来週あたり、美代子と尊を遂に絡ませるんですけど、挿絵をお願いしたい場面なのに、こっちがちょっと上手く決まらなくて悩んでまして」
「おお、純なカップルが遂にいっちゃうんですね、よくじらしましたねぇ」
 小山内は少し酔ったのか、やけに朗らかな笑顔になって言った。それを見て玲は笑ってしまう。
「ヒロさん楽しそう」
「主人公カップルの初絡みはいつも楽しいですよ、だって今回は周囲はやりまくってるのに、美代子様と尊殿はいつになったらキスの先に進むんだって、読者はみんなやきもきしてたでしょ」
「お嬢様とお坊ちゃまだし、婚約者でもないですからね、直ぐにくっつける訳にいかなくて……あのですね、ヒロさんなら美代子の……おっぱいの先にどんな色乗せますか?」
 玲は乳首という言葉を口にすることができず語尾を小さくしたが、どうしても訊きたい欲望に負けてしまった。
「えっ、美代子様のおっぱい、カラーで描かせてくれるんですか?」
 小山内が目を見開き身を乗り出して来たので、思わずいやいや、と押しとどめる。
「私もほんとはカラーで美代子の色っぽい姿を描いて欲しいですけど、ちょっと載せられないです」
「あーそうですよね、残念……色? そうですね、……濃い目のピンクかな」
 小山内は目を細めたが、その表情にいやらしいものは感じなかった。美しい色を探しているのだと、何故か玲にはわかった気がした。
「ソメイヨシノじゃなくってモモの花みたいな……彼に触れられるのを待って、もうち始めてるんです」
 言うことはエロいなあ。玲は苦笑しながら、ノートパソコンを開いた。小山内が覗いてくる。
「あ……これ」
 玲のパソコンの壁紙を見て、小山内が思わずといったような声をあげた。彼が最初に玲に送って来てくれた、カラーの絵である。小説を読んで、好きなシーンを描いたと言ってくれた……ヒロインがキャミソール姿で、彼とのセックスを反芻しながら、ソファでしどけなく横になりオレンジジュースを飲んでいる。情事の名残りを留める肌の色や白い絹のキャミソールの質感、室内灯に浮かび上がる髪の艶。玲の文章での描写よりも余程色気があり、最初目にしたとき、ぞくぞくした。
「これはファンアートなのでアップする訳にはいかないでしょう? だから私が愛でてます」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品