社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

第43話 パーティー①

芹香から、パーティーの招待状が届くなんて、珍しい。
だって、芹香はお嬢様だから、何度もパーティーに行っているだろうけれど、私は今まで誘われた事がないのだ。
「それも、可笑しな話だけど。」
何だろう。
パーティーって、お金持ちの集まりだって分かっている。
私がパーティーに出席したって、そんな人達と話なんて合わない。
なのに、どうして芹香は今回、私を誘ったのだろう。

そして招待状を見て、ふと気づいた。
主催が、沢井家である事を。
ああ、そうか。
芹香が主人公だから、好きな人を呼べるのね。
私が呼ばれた事を、納得した。

「何?どうしたの?」
お母さんが、後ろから話しかけてきた。
「芹香が、パーティーの招待状を送って来たの。」
「パーティー!」
お母さんは私から招待状を奪い取ると、面白ろそうに中身を読んだ。
「へえ。皆さんに発表したい事がありますだって。」
「何だろうね。」
「こういうの、お母さん好きだわ。」
母は呑気だ。

後ろで何が起こるか、分からないって言うのに。
「出席するの?」
「せっかく招待されたんだからね。」
「友達としては、行かなきゃね。」
信一郎さんの事を除けば、私達は友達だ。
その友達が、自分のパーティーに招待してくれたのだから、行かなきゃいけない。

「ドレス、買わないとね。」
「うーん。そこまでする必要あるかな。」
「普段着で行ったらダメよ。パーティーなんだから。」
「うん。そうね。」
私はお母さんにそう返事をして、自分の部屋へと戻った。
クローゼットを見ても、ドレスらしい服はない。
ただ黒のワンピースはあった。
「これでいいかな。」
シンプルな形だし。フォーマルにも使えそうだし。

パーティーは、今週末に行われる。
服が決まると、何だかワクワクしてきた。
芹香主催のパーティーって、どんな形なんだろう。
他にどんな人を呼んでいるのだろう。
楽しみになってきた。

パーティーの日、私は黒のワンピースを着て、階段を降りた。
「あら、お嬢様の登場ね。」
お母さんが階段の下で、私を待っていた。
「お嬢様じゃないよ。」
「大丈夫よ。そう見えるから。」
そんな言葉を掛けられて、嬉しくもあり複雑な気持ちになった。
「招待状、持った?」
「持った。」
「楽しんでくるのよ。」
私は頷いて、ヒールのある靴を履いた。

「やっぱり、若い時は綺麗よね。」
「えっ?」
お母さんは私を見て、ため息をつく。
「何ていうの。身体から光が見えるのよね。」
「お母さん、大丈夫?」
身体から光って、若いってそんなにいいの?
「年を取ると、くすんできて。イヤね、歳を取るって。」
そんな事言われても、困る。

「お母さんだって、若い時があったでしょ。」
「その時に、パーティーなんてなかったわ。」
何か、笑ってしまった。
「私だって、人生で初のパーティーだよ。」
そう言ったら、お母さんも笑っていた。
「行ってらっしゃい。」
「行ってきまーす。」
お母さんに挨拶をして、家を出た。

芹香の家までは、歩いて行ける。
余裕で道を歩いていると、芹香の家に向かって、車が通って行く。
きっとあの人達も、芹香に呼ばれたのだろう。
すると、一台の車が私の横に停まった。
「すみません。沢井家のお屋敷は、こちらで合っていますか?」
見ると、お人形さんように可愛い女の子が乗っていた。
「はい、もう少し行けば、見えてきますよ。」
「ありがとうございます。」
その女の子は、声まで可愛い。
全く、お嬢様と言うのは、くじ引きで当たりを引いた人達なのだろう。

角を曲がると、沢井家の玄関があった。
当然、車がたくさん集まっている。
その中からお嬢様と言う名の女の子達が、一人また一人と降りて来る。
そして、さっき車から芹香の家の屋敷を聞かれた女の子と、目が合った。
「ああ、さっきの……」
「どうも。」

私は、一応頭を下げた。
「あなたも沢井家のパーティーに呼ばれたの?」
「ええ。」
「へえ。」
そのお嬢様は、私をじーっと見ている。
「失礼ですけど、お名前は?」
「森井礼奈です。」
「森井さん?聞いた事ないけれど、お父様はどちらの社長さん?」
あーあ。棘のあるような言い方?
「森井産業ですけど。」
「そうだったの?知らなかったわ、ごめんなさい。」
ぱぁーっと笑うその笑顔が、眩しい。
お嬢様は、笑顔も一級品だ。

「私、沢井家のお嬢様、芹香さん?高校の同級生で。」
「へえ。」
確か芹香は、超お嬢様学校に通っていたって言っていた。
「大学もそのまま進学されると思っていたのに、他の大学に行かれたので、バラバラになってしまって。」
そこで、芹香は私に出会ったのよね。
「だから、会うのは数年ぶりなの。」
「そうだったんですね。」
知らぬ間に、私も口調が丁寧になる。

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