社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

第40章 ライバルね②

信一郎さんに言われると、元気が出る。
ああ、やっぱり私。
信一郎さんと一緒にいたい。

その時だった。
インターフォンがゆっくりと鳴った。
「誰だろう。」
信一郎さんが、インターフォンを見ると、「わっ!」と驚いた。
「どうしたの?」
「芹香さんがいる。」
「えっ 」
私もインターフォンを見ると、そこにはおめかしした芹香が立っていた。

「どうして、ここに?」
「大方、俺の両親にでも教えて貰ったんだろう。」
そんな!ただのお見合い相手に、家を教えるの?
「居留守使う?」
信一郎さんは、静かに頷いた。

『開けて、黒崎さん。』
芹香は、明るい声で話しかけてくる。
『今日、家にいるのは知ってるのよ。』
私と信一郎さんは、顔を見合わせた。
『礼奈も一緒にいる事もね。』

すると信一郎さんは、私を抱きしめた。
「礼奈。芹香さんは、取引先のお嬢さんだ。無下にはできない。」
「分かった。」
そして信一郎さんは、私から離れると、玄関のドアを開けた。
「黒崎さん。」
「こんにちは、芹香さん。」
まるで二人は、友達のよう。

「礼奈も久しぶり。」
「3日ぶりだけどね。」
そして芹香は、一人スタスタとリビングに行って、ソファーに座った。
「何?これ。」
信一郎さんの淹れたコーヒーを、指さした礼奈。
「コーヒーだよ。芹香さんも飲む?」
「飲む!」
無下にできないと知っていて、芹香は調子乗っている?
右手を上に挙げて、アピールしている。

「それで?今日は何の用事?」
「あら、婚約者の家に来るのが、そんなに変?」
私は声にならない苛立ちを感じた。
「芹香さん、俺達は正式に婚約した訳ではないから。」
「そうだったわ。ごめんなさい。」

信一郎さんが、コーヒーを差し出すと、上品にそれを飲む。
さすが芹香は、躾がなっている。
「あら、美味しい。」
今日は機嫌がいいのか、終始芹香は笑顔だ。

「芹香さん、今の内に言っておきたいんだが。」
信一郎さんが、芹香の向かいの席に座る。
「今、俺と付き合っているのは礼奈なんだ。あまり、礼奈を刺激しないでくれ。」
「分かっているわ。結婚するまでの繋ぎだもんね。」
はあ と言いそうになったのを、信一郎さんが止めた。
「礼奈、私達。ライバルね。」
「ライバルって……」
「どっちが黒崎さんの気持ちを射止めるか、戦いね。」
ちょっと呆れる私に、信一郎さんはまあまあと、私の背中を摩る。

「黒崎さん、これからは私とも、付き合ってもらうわ。」
「いえ、俺、そういう事は……」
「会社の取引がどうなってもいいの?」
私の苛立ちは、ピークに達した。
「さっきから聞いていれば、言いたい放題言っちゃって!」
私はテーブルを叩いた。
「お金に困ってるのは、芹香の家でしょ!」
すると芹香は、クスクス笑いだした。

「それもそうね。でも、この話は聞いた?」
「何よ。」
「黒崎さんの会社に、沢井薬品が出資するって話。」
「えっ 」
私は信一郎さんを見た。

「悪い。いつの間にか、そういう話になっていて。」
「両親が、決めていたって事?」
「ああ。」
何かと出てくるお互いの両親。
何なの 
子供達を駒にして、一体何を企んでいるの 

「黒崎さんは、礼奈と結婚して、何を得るの?」
「それは……愛する人と一緒にいられる時間よ。」
「ぷっ!」
何よ、その笑い方!
私だって、言うの恥ずかしかったんだから!

「これで決まりね。」
芹香は勝ち誇ったように、ニコッと笑った。
「黒崎さんには、私ともデートして貰って、どちらが黒崎家にとって得なのか、見極めて貰わないと。」
私は、右手をぎゅっと、握りしめた。

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