乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

116話 セカンド・キッス・ヒール

 私はとっておきの回復魔法をカインに発動した。
 条件付きで高い効力を発揮する『ファースト・キッス・ヒール』という魔法だ。
 貴族の淑女がキスを捧げたという噂が広まると、いろいろとマズい。
 できれば事を大きくしたくはないのだけれど……。

「……イザベラの言う通りだ! 先ほどのキスはあくまで治療行為である!!」

「そ、その通りですね。さぁ、カイン殿。こちらに早く加勢してください」

 フレッドを抑えているエドワード殿下とオスカーがそう言う。
 何やらひどく動揺している様子だが、気丈にもまだちゃんと戦ってくれている。

「まぁ、みんながそう言うなら……。うぐっ!?」

 突然、カインがふらついた。

「ど、どうしたの!?」

「だ、大丈夫だ……。だが、まだ万全じゃなかったみたいだ……」

「そんなはずはないわ。わたしの【ファースト・キッス・ヒール】は完璧に発動して――あっ!!」

 私はとんでもない思い違いをしていたことに気づく。

「どうした? イザベラ嬢」

「いっけない! 条件を満たせていなかったわ!!」

 『ファースト・キッス・ヒール』の発動条件は、使い手がうら若き女性であり、かつ発動時に行うキスがファーストキスであることだ。
 私はキスをしたことがない貞淑な貴族令嬢である――と言いたいところだけれど。
 さっきフレッドとダンスしているときに、唇を奪われてしまったのだ。

「厳密には【セカンド・キッス・ヒール】にすべきだった――あっ!!」

「「「な、何だとおおぉっ!!?」」

 私の言葉を聞いて、カイン、エドワード殿下、オスカーが驚愕の声を上げた。
 うっかり口を滑らせてしまったわ。
 適当な理由――例えば魔力不足で効力が落ちたとか――で説明しておけば済んだことなのに。

「イザベラ、貴様……まさかファーストキスをすでに済ませていたのか!?」

「いえ、殿下! 落ち着いてください。おそらくただの言い間違いでしょう。イザベラ殿に限ってそのようなことは……」

「ど、どうなんだ!? イザベラ嬢!!」

 もはやフレッドなどそっちのけで、三人とも私の言葉に注目して詰め寄ってくる。

「えーっと……。ごめんなさい、みんな。実はもう経験済みです……。あはは……」

 私は観念して正直に告白する。
 みんなに嘘をつきたくはなかったし、ここで変に誤魔化すのも限界がある。
 暴走するフレッドを、みんなで協力して止めなければならないのだから。
 そのフレッドはといえば、何だかやけに静かだ。
 闇の瘴気が収まりつつあるのかしら?

「……イザベラさんの唇……僕だけのものだったのに……」

 いやいや!
 これはマズイわよ!!
 パッと見で分かるぐらい、彼の周りにはドス黒いオーラが立ち込めている。
 このままでは、今以上に暴走してしまうかもしれない。
 私がそう危惧した瞬間だった。

「イザベラ様」

 不意に、離れたところから声が上がった。
 見るとそこには、見覚えのある一人の少女が立っていたのだった。

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