乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

77話 フレッド

「……であるからして……」

 先生の声だけが響く静かな教室。
 窓から差し込む日差しが眩しい。

(やっぱり、錬金術の授業は楽しいなぁ……。前世では、化学が苦手であまり好きじゃなかったけど、錬金術は好きなんだよねぇ)

 この世界には魔力が溢れているため、現代日本ではできなかったことができる。
 それが楽しくて仕方がないのだ。

「姉上……。勉学に励まれる姿も素敵です……」

 隣に座るフレッドが呟いた。
 私はそれを聞き逃さなかった。

「フレッド。授業中に変なこと言わないの」

「すみません。でも、本心なので……」

「全く……」

 困った弟だ。
 私が彼の母親を治療してからというもの、ずっとこうなのだ。
 まあ、嫌ではないんだけどさ。
 むしろ、懐かれて嬉しいくらいだし。
 ただ、ちょっと距離感を間違えている気がするのよね。
 私と彼は血が繋がっていないとはいえ、姉弟なわけで……。

「……」

 フレッドを見ると、彼は頬を赤らめながら、キラキラとした目でこちらを見ていた。

「……」

 どうしよう。
 これって、どうしたらいいの?
 私、どうすればいい??
 ずっと放っておくわけにもいかないよねぇ……。

「フレッド。授業に集中できないようなら、今すぐ帰りなさい」

「えぇー。姉上ひどいです」

「ひどくありません。あなたはもう子供じゃないでしょう。しっかりしなさい」

 厳しい言い方かもしれないけれど、仕方ない。
 どこの世界に、授業中ずっと姉の横顔を眺めている弟がいるんだ。
 変な噂になったらどうする。

「はい。分かりました」

 フレッドはしょんぼりとして返事をした。
 そして、その後は静かにノートを取っていた。
 ……本当に分かっているのかなぁ。
 少し心配だ。

「姉上は、僕が嫌いなんですか?」

 フレッドがボソッと聞いてきた。
 私は彼を見ずに答える。

「嫌いではないわよ」

「良かった……」

 ホッと息を吐く音が聞こえた。

「姉上。僕は姉上のことが大好きですからね」

 フレッドはそう言って笑っていた。
 我が弟ながら、やっぱりイケメンだなぁ。
 さすがは『ドララ』の攻略対象なだけはある。
 俺様気質で万能な次期国王のエドワード殿下。
 男らしいイケメンで肉体派、子爵家の養子であるカイン。
 眼鏡を掛けた知的なイケメンで氷魔法を操る、伯爵家子息のオスカー。
 そして、やや背が小さいながらも将来性を感じさせるイケメン、フレッド。
 どのキャラも魅力的なキャラクターだった。

(あの予知夢がなければ……。私が悪役令嬢のイザベラじゃなかったら、みんなと仲良くできたのに……)

 私はそっとため息をつきつつ、授業を真面目に受けたのであった。

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