乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

75話 二人で

 とある秋の昼下がり。
 私はアリシアさんから秋祭りに誘われた。

「あら、嬉しいお誘いね。アリシアさんから誘ってくれるなんて。もちろん、いいわよ。私もアリシアさんと一緒だと楽しいし」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 アリシアさんはとても嬉しそうな顔をしている。
 そんな彼女の顔を見ると、こちらまで楽しくなる。

(それにしても、アリシアさんが私と祭りに行きたがるとは意外だわ。『ドララ』ではそんな描写なかったはずなのに。……まあ、ヒロインと悪役令嬢だからそれも当然なのだけれど)

 『ドララ』は、主人公アリシアが学園で他の攻略対象と出会い、恋に落ちていく物語だ。
 そして、悪役令嬢イザベラはその恋の邪魔をする。
 最終的に、イザベラは断罪され、学園を去ることになる。
 予知夢では、追放どころかその場で殺されてしまった。

(まあ、私は別にアリシアさんをいじめたりしないつもりだし、むしろ助けてあげようと思っているくらいなんだけどね。だって、アリシアさんはいい子なんだもん)

 ゲーム通りに進むとは限らない。
 実際、ゲームの強制力のようなものも感じないし。
 このまま『ドララ』のルートからどんどん逸れてしまえばいいのにとさえ思う。
 アリシアさんと仲良くなって以来、私は彼女に好意を抱くようになっていた。
 それは恋愛的な意味ではなく、友情的なもので。
 彼女と話していると、とても楽しい。

「他の人は誰か誘うの? 例えば、エドワード殿下とかさ」

「いえ! わたし、まだ誰とも約束していないです。エドワード殿下なんて恐れ多いですよぉ」

 アリシアさんは『ドララ』のヒロインだ。
 でも、この世界では本来の攻略対象であるエドワード殿下、カイン、オスカー、フレッドと特に親しくなってはいない。

「ふふっ、確かに。でも、アリシアさんは優しいから、すぐに仲良くなると思うけどな」

 実際、同学年のオスカーとは最低限の会話ぐらいはするようになった。
 また、私の義弟フレッドとは、下着姿を見られてしまった仲だ。
 あれは、下着姿で私のベッドに潜り込んでいたアリシアさんも、制止の声を聞かずに部屋に入ってきたフレッドも悪いのけれど……。

「わたしはイザベラ様と二人で回りたいです!」

「そう? 分かったわ。じゃあ、詳しい日程が決まったら連絡するわね」

「はい! よろしくお願いします!」

 アリシアさんは元気よく返事をして、自分の教室へと戻っていった。

「さて、私も午後の授業に行こうかしらね」

 午後の授業は錬金だ。
 しっかりと学ばせてもらうことにしよう。

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