乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
54話 濁った目
「フレッド? あなた、自分が何をやったのか分かっているのかしら?」
私は怒り心頭といった様子で彼を睨む。
彼は冷や汗を流しながら目を逸らす。
「し、仕方がなかったんです。僕は姉上のことが心配で……」
「アリシアさんが泣いてしまったのはあなたの責任なのよ。彼女の将来に影響が出たら、どうするつもりなの?」
未婚の貴族令嬢が、婚約者でもない男に下着姿を見られる。
これは一大事だ。
「ごめんなさい……。本当に反省しています。だからどうか、許してください……」
しゅんとした表情で謝るフレッド。
私はため息をつくと、アリシアさんに話を振る。
「……アリシアさん? あなたの方からも彼に言ってやりなさいな」
すると、彼女は首を横に振った。
「いえ、わたしの方こそすみませんでした。記憶はありませんが、イザベラ様のお部屋に勝手に入っていたのはわたしです。わたしが悪いです」
そう言うと、彼女は深々と頭を下げる。
「え? いえ、えっと……。悪いのは僕なのです。アリシア殿が頭を下げなくても……」
「わたしが悪いのです。こんなわたしが王立学園に入学したのがそもそもの間違いだったのです。無能な役立たずのわたしなど、最初からいない方が良かったのです……」
フレッドとアリシアさんの謝罪合戦が始まる。
根は善良な二人だ。
今回は不幸な事故が起きてしまったが、この場の三人が黙っていれば、アリシアさんの今後に影響は出ない。
この様子だとお互いに謝り合って一件落着するだろう。
私はそう思った。
でも……。
「……わたしなんて、生まれてこなければよかったのに……」
…………ん?
「あ、アリシアさん?」
「……生まれてきたのが間違いだったのです。わたしを生んだせいで、ママは男爵家を追い出されました。パパも、正妻の方から激しく責められたそうですし。わたしなんか、生まれてこなかった方がいいに決まっているのです」
様子がおかしい。
アリシアさんの目から光が消えている。
「アリシアさん! しっかりして!」
私は必死に呼びかける。
彼女の目は濁っている。
この目、どこかで見たような気が……。
「姉上! このポーションを彼女に!!」
「え? わ、分かったわ!!」
私はフレッドに言われるままにポーションを飲ませる。
これは、確か精神干渉系の魔法を打ち消すポーションだ。
アリシアさんはすぐに正気を取り戻した。
「……あれ? わたしは一体……」
「ああ、アリシアさん! 良かった! 無事に戻ったのね!!」
私は彼女を抱きしめた。
「イザベラ様!? えっと、その……」
「アリシアさん、自分がどういう状況か分かる?」
「はい。あの……何だか、気分がどんどん落ち込んでしまったことは覚えています。これほどネガティブな気持ちになったことはなかったのですけど……。ご迷惑をおかけしました」
「いいのよ。気にしないで。さっきのはきっと疲れていただけよ。あなたは何も悪くないわ」
私はアリシアさんを励ますように微笑みかける。
彼女は光魔法の使い手。
『ドララ』では、その天真爛漫な性格で、貴族社会に疲れた攻略対象達の癒しとなっていた。
ゲームの設定とはズレてきている。
エドワード殿下、カイン、オスカー、フレッドもゲームの性格とは若干のズレがあるが、概ねは一緒だ。
剣術、魔法、座学等の成績も本来の設定と異なってきているが、これはいい方向への修正だと思う。
だが、アリシアさんだけは例外だ。
彼女の場合、マイナス方向に補正されている。
このまま放置するのは危険かもしれない。
私はそう思い始めていた。
「さあ、気を取り直してお茶にしましょう。お菓子もあるわよ」
「は、はい。いただきます」
「僕が準備致します」
とりあえず今日のところは雑談でケアし、様子を見よう。
彼女の異変がバッドエンドに繋がらないように、注意しておく必要がある。
私は怒り心頭といった様子で彼を睨む。
彼は冷や汗を流しながら目を逸らす。
「し、仕方がなかったんです。僕は姉上のことが心配で……」
「アリシアさんが泣いてしまったのはあなたの責任なのよ。彼女の将来に影響が出たら、どうするつもりなの?」
未婚の貴族令嬢が、婚約者でもない男に下着姿を見られる。
これは一大事だ。
「ごめんなさい……。本当に反省しています。だからどうか、許してください……」
しゅんとした表情で謝るフレッド。
私はため息をつくと、アリシアさんに話を振る。
「……アリシアさん? あなたの方からも彼に言ってやりなさいな」
すると、彼女は首を横に振った。
「いえ、わたしの方こそすみませんでした。記憶はありませんが、イザベラ様のお部屋に勝手に入っていたのはわたしです。わたしが悪いです」
そう言うと、彼女は深々と頭を下げる。
「え? いえ、えっと……。悪いのは僕なのです。アリシア殿が頭を下げなくても……」
「わたしが悪いのです。こんなわたしが王立学園に入学したのがそもそもの間違いだったのです。無能な役立たずのわたしなど、最初からいない方が良かったのです……」
フレッドとアリシアさんの謝罪合戦が始まる。
根は善良な二人だ。
今回は不幸な事故が起きてしまったが、この場の三人が黙っていれば、アリシアさんの今後に影響は出ない。
この様子だとお互いに謝り合って一件落着するだろう。
私はそう思った。
でも……。
「……わたしなんて、生まれてこなければよかったのに……」
…………ん?
「あ、アリシアさん?」
「……生まれてきたのが間違いだったのです。わたしを生んだせいで、ママは男爵家を追い出されました。パパも、正妻の方から激しく責められたそうですし。わたしなんか、生まれてこなかった方がいいに決まっているのです」
様子がおかしい。
アリシアさんの目から光が消えている。
「アリシアさん! しっかりして!」
私は必死に呼びかける。
彼女の目は濁っている。
この目、どこかで見たような気が……。
「姉上! このポーションを彼女に!!」
「え? わ、分かったわ!!」
私はフレッドに言われるままにポーションを飲ませる。
これは、確か精神干渉系の魔法を打ち消すポーションだ。
アリシアさんはすぐに正気を取り戻した。
「……あれ? わたしは一体……」
「ああ、アリシアさん! 良かった! 無事に戻ったのね!!」
私は彼女を抱きしめた。
「イザベラ様!? えっと、その……」
「アリシアさん、自分がどういう状況か分かる?」
「はい。あの……何だか、気分がどんどん落ち込んでしまったことは覚えています。これほどネガティブな気持ちになったことはなかったのですけど……。ご迷惑をおかけしました」
「いいのよ。気にしないで。さっきのはきっと疲れていただけよ。あなたは何も悪くないわ」
私はアリシアさんを励ますように微笑みかける。
彼女は光魔法の使い手。
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ゲームの設定とはズレてきている。
エドワード殿下、カイン、オスカー、フレッドもゲームの性格とは若干のズレがあるが、概ねは一緒だ。
剣術、魔法、座学等の成績も本来の設定と異なってきているが、これはいい方向への修正だと思う。
だが、アリシアさんだけは例外だ。
彼女の場合、マイナス方向に補正されている。
このまま放置するのは危険かもしれない。
私はそう思い始めていた。
「さあ、気を取り直してお茶にしましょう。お菓子もあるわよ」
「は、はい。いただきます」
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