乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

23話 シルフォード伯爵領

「へえ。ここがシルフォード伯爵が治める街なのね。なかなか活気があるじゃない」

 私は、馬車の窓から見える街の様子を見ながら言った。
 先日の夜会の日にも通ったのだが、あの時は街の様子を見る余裕がなかった。

「そうですね。街全体がとても栄えていて、治安も良いようです」

 隣に座っていたフレッドも同意した。

「あっ! ああっ!!」

「ど、どうされましたか!? 姉上!!」

 突然大声を出した私に驚いたのか、フレッドが慌てる。

「あそこの屋台を見てちょうだい!」

 私は窓の外に見えるある店を指差す。

「え? どれです? ……ああ、あれは串焼き屋みたいですね。それが何か?」

「とてもおいしそうじゃない? 食べたいなぁ」

 私は目をキラキラさせながら言う。

「……は?」

 フレッドはポカンとした顔をしていた。

「ね、食べましょうよ」

「ダメです。まずはシルフォード伯爵家へ挨拶に行かないと。そんなことをしている暇はありません」

「ちょっとくらいいいでしょう?」

「ダメなものはダメです。それに、父上からも言われているんです。姉上を甘やかすなって」

「別にいいじゃない。フレッドだって、いつもお菓子をこっそり食べていたでしょ?」

「そ、それとこれとは話が別です」

 彼は年齢の割に大人びているが、年相応なところもある。
 その一つが、甘いもの好きなところだ。

「ねえ、お願い」

 私は両手を合わせて懇願する。

「……はあ。仕方ないですね。少しだけですよ?」

「やったー」

 フレッドの許可が下りた。
 今回の視察は、私とフレッドがメインだ。
 護衛や世話役も同行しているが、身分としては私とフレッドが最も上。
 彼の許可さえ下りれば、私は好き放題に行動できる。
 ……いや、本当は私の一存でもいいんだけどね?
 私の方が年上だし。
 でも、彼は私にずいぶん懐いており、いつも私の身を案じてくれている。
 だから、彼に黙って好き勝手に動く気にはなれない。

「すまない。串焼きを二本もらえるか」

 フレッドは馬車を降り、店番をしていた中年のおじさんに注文をした。

「あいよ」

「ありがとう」

 フレッドはお金を払い、串焼きを受け取った。

「ほら、姉上」

 そして、そのうちの一本を私に手渡してくれる。

「ありがと。フレッドって優しいのね」

 私はお礼を言い、笑顔で受け取った。

「べ、べつに、僕は優しくなんか……」

 フレッドは照れ臭そうな顔をしながら、頬を掻いていた。

「じゃあ、いただきます」

 私は早速、串に刺さった肉に齧り付いた。
 じゅわっと口の中に肉汁が広がる。

「ん~おいしいっ」

「……確かに、これは絶品ですね」

 フレッドも夢中で食べ進めていく。

「もうなくなっちゃった」

 私は名残惜しみながら呟く。
 そして馬車に戻ろうかと思った、その時だった。
 信じられないものが目に入った。

「う、嘘……。どうして……」

 私は目の前にある光景を見て、思わず声を漏らす。

「どうかしましたか? 姉上」

 フレッドが心配そうに声をかけてくる。
 だが、それどころではない。

「ねえ、フレッド……。あれを見てっ!」

 私は興奮気味に、フレッドの腕を掴んで言った。

「え? どれですか?」

 フレッドは私が指差した方を見る。
 そこには、屋台があった。
 その屋台で売っているものは、紛れもなく……。

「……アップルパイ? あれがどうしたというのです?」

 フレッドは不思議そうに首を傾げる。

「分からないの? 私達は、串焼きを食べてお腹を満たした。次は何がしたい?」

「……あ、ああ。そういうことですか。さすがは姉上……。そのお腹の状態で、また甘いものが食べたいと仰るのですね?」

 フレッドは呆れたように笑っていた。

「もちろんよ! 食べないなんて選択肢はないわ!」

 私は満面の笑みを浮かべながら、再び歩き出した。

「ちょ、ちょっと待ってください。シルフォード伯爵家への挨拶もまだなのに……。お腹を膨らませた状態で会うおつもりですか!」

 フレッドは慌てて追いかけてきた。
 彼の言うことも一理ある。
 あまり好き放題するのもマズイ。
 でも、止まれないんだ。
 アップルパイが私を待っている!

「ふふふ。よろしいではありませんか」

 不意に、私を擁護するような言葉が聞こえた。

「あなたは……」

 私は驚き、後ろを振り返る。
 そこにいたのは、眼鏡を掛けた理知的な少年。
 銀色の髪が美しくなびいている。
 この領地を治めるシルフォード伯爵家。
 その跡取り息子である、オスカー・シルフォードがそこに立っていたのだった。

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