令和ちゃんと平成くん~新たな時代、創りあげます~

阿弥陀乃トンマージ

第7話(4) 神聖暴れ鹿ちゃん

「うおっ 」

 平成たちが朱雀大路に駆けつけると、鹿が数頭、路上で暴れ回っている。

「こ、これは……?」

「分かりません、突然暴れ出して……」

 奈良の問いに男性は首を傾げる。天平が声を上げる。

「原因は後でもいいわ! 今はあの鹿ちゃんたちをなんとかしましょう!」

「よっしゃあ!」

 平成が七支刀を手にして鹿に果敢に向かっていく。天平が慌てる。

「鹿ちゃんは神聖な生きものよ! 手荒な真似は出来るだけ避けて!」

「ええっ  ぐおっ!」

 踏み止まった平成に対し、暴れ鹿の一頭が突撃し、平成を突き飛ばす。

「平成さん!」

「な、なんとか大丈夫だ!」

 平成は咄嗟に受け身を取り、体勢を立て直す。奈良が冷静に分析する。

「速度も突進力も増している……ただ単に興奮しているわけではなさそうですね」

「全部で四頭ね……どうする? 奈良姉さま?」

「とりあえず落ち着かせます!」

 奈良は長柄の団扇をどこからか取り出す。令和が驚く。

「そ、それは 」

さしはです! 本来は貴人のお顔を隠す為に用いるものです!」

「それをどうやって 」

「こうします!」

「 」

 奈良は翳を振るうと強い風が吹き、鹿の動きが弱まる。天平が叫ぶ。

「少し動きが弱まりました!」

「もう一振り!」

「!」

 奈良が再び翳を振るって風を起こし、自らを空中に飛び上がらせる。平成が声を上げる。

「と、飛んだ 」

「失礼!」

 奈良が鹿に跨る。令和が再び驚く。

「鹿に跨った 」

「それ!」

「! ……」

 奈良は翳で鹿の視界を遮る。興奮状態だった鹿が落ち着く。天平が称賛する。

「やった! さすがは奈良姉さま!」

「気をつけて! まだ三頭います!」

「む!」

 残った暴れ鹿の一頭が天平に向けて突進する。

「危ねえ!」

「平成くん!」

「手荒な真似が出来ねえなら……これだ! 『マスコット召喚』!」

「なっ 」

「な、なに 」

 平成が叫ぶと頭に鹿の角が生えた童子が現れ、奈良と天平が揃って驚く。

「頼むぜ! なんとかしてくれ!」

「……!」

 童子がなにやら唱えると、天平に向かっていた暴れ鹿が大人しくなる。

「やったぜ!」

「なんとかしてくれって……」

「召喚してみるまでどんな能力を使うか、俺にも分からないからな!」

「出たとこ勝負過ぎるでしょう!」

 平成の言葉に令和が呆れ気味に叫ぶ。童子がふっと微笑んで消える。天平が尋ねる。

「い、今のは何?」

「2010年に開催された『平城遷都1300年祭』のマスコットです! 翌年から奈良県のマスコットキャラクターになりました!」

「ええっ 」

「だ、大分変わったいでたちをされていましたね……」

 平成の説明に天平が驚き、奈良が戸惑う。

「あのデザイン、結構好評ですよ」

「好評なの 」

「……ある試算では、誕生から10年で奈良県に約2100億円の経済効果をもたらしたそうです」

「そんなに……現代のセンスがよく分からないわ……」

「まあ、この奈良の地の為になっているのならば、良しとしましょう……」

 令和の補足説明に天平は首を振り、奈良は頷く。残りの鹿が二頭、令和に向かってくる。

「む!」

「令和ちゃん! 今のマスコットを召喚して力を大分消耗しちまった! ちょっとばかり動けねえ! 悪いが自力でなんとかしてくれ!」

「丁寧な報告、痛み入ります! ……弥生さんにもらった勾玉で! 何かよ起これ!」

「いやそっちもわりと出たとこ勝負ね 」

 弥生が勾玉を掲げて叫ぶ。天平が困惑気味に驚く。

「 」

 勾玉が水色に光ったかと思うと、強い風と大粒の雨が降りつけ、鹿が一頭大人しくなる。

「なんとかなりました!」

「結果オーライだけど、その勾玉なんなんだよ 」

「さっぱり分かりません! ん 」

 最後に残った鹿が体勢を立て直し、再び令和に向かっていく。天平がその間に入る。

「現代っ子のアドリブバトルはとても危なっかしくてみていられないわ! 私がお手本を見せてあげる!」

 天平が短冊状の細長い木の板を取り出す。令和が首を傾げる。

「それは『木簡もっかん』  それでどうやって……」

「以前は呪符を書き、疫病の原因とされた鬼を退治してもらうよう願いを込めたものよ!」

「疫病を退散させた  興味深い……それに書き込むわけですね!」

「そうよ! えっと……『なんとかして』」

「結局それじゃないですか!」

「咄嗟だから思い付かなかったのよ! えい!」

 天平は木簡をかざす。すると雷が鹿の近くに落ち、驚いた鹿は大人しくなる。

「な、なんとかなった……」

「ほらね!」

「い、いや、一歩間違ったら神聖な鹿ちゃんが大変でしたよ!」

「結果が良ければそれで良いでしょう! うん 」

 四頭の鹿の影から影が抜けて一つの巨大な影になる。奈良が分析する。

「あの悪しき影が鹿を暴れさせていた……?」

「っていうことはあの大きな影をなんとかすれば良いんですね 」

「どうやって 」

「こうするんですよ! 『俗説具現化』!」

「…… 」

 詳細はとても書けないが、平成の一部が巨大化する。それを見た影は恐れおののいたのか、霧消する。平成は胸を張る。

「『道鏡どうきょうは座ると膝が三つ出来』とはよくいったものだぜ! なあ!」

「こっち見なくて良いですから! それこそなんとかして下さい!」

 振り向こうとする平成に令和が赤面しながら叫ぶ。平成が奈良に尋ねる。

「……実際どうだったんですかね?」

「……ノーコメントとさせて頂きます」

 奈良は平成の問いに冷たい声色で答える。

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