令和ちゃんと平成くん~新たな時代、創りあげます~

阿弥陀乃トンマージ

第5話(3) キャラ付けは大事

「なんもおかしいことはないやろ!」

 古墳が声を上げる。平成が呆れる。

「だってそれだとキャラ付けみたいな意味合いじゃないですか……」

「キャラは大事やろ!」

「キャラ付けはともかくとして……王の権力がどれほどのものかを視覚的に、分かりやすく伝えたかったのでしょうね」

「そういうこっちゃ」

 令和の言葉に古墳は頷く。平成が呟く。

「アピール的な意味合いか……」

「アピールも重要や、古墳造営は一大国家プロジェクトやったんやで?」

「国家プロジェクトねえ……」

「大仙陵古墳ですが、試算によると、工期は15年8か月、延べ作業員は約680万人、総工費は約796億円かかったそうです」

「! そ、そんなに……」

 令和の説明に平成は言葉を失う。古墳は胸を張る。

「恐れ入ったか!」

「『制作○○年! 製作費○億円!』系の謳い文句の作品とかロクなもんじゃないよな?」

「それについてはノーコメントとさせて頂きます……」

 平成の問いに令和は目を逸らす。平成は古墳に問う。

「あんなデカいお墓に何が入っているんです?」

「遺体を収めた棺やな」

「いや、それはそうでしょ」

「冗談や、副葬品としては鏡や武器などの鉄器が多かったかな」

「武器ですか……」

「『ワカタケル大王』の鉄剣など有名ですね、埼玉県の稲荷山古墳いなりやまこふんや熊本県の江田船山古墳えたふねやまこふんから出土した鉄剣に同じ王の名が入っていたということでヤマト王権のおおよその勢力範囲を推定することが出来ました。当時既に日本列島の半分程度を支配していたようです」

「やるな、『カメハメハ大王』、太平洋を股にかけていたんだな」

「大王違いです」

 令和が否定する。古墳が補足する。

「後は副葬品ではないけど『埴輪はにわ』が多いな。古墳には不可欠な定番アイテムや」

「アイテムって……」

 古墳の説明に平成は苦笑する。

「そろそろ家に案内するで」

 古墳に続いて、丘を下った平成と令和は集落に到着する。令和が呟く。

「濠などは掘らないのですね……代わりに生け垣で囲んでいますね」

「その地域全体を治める有力な首長が現れ、ムラを守るようになったか。人々が暮らすムラとは離れた所に『首長居館しゅちょうきょかん』が造られるようになった……はっきり覚えていないけど……」

「どういうことですか?」

 古墳の予想外の発言に平成が戸惑う。

「なんて言うたらええのかな……」

「この時期の居住区域の遺跡は実はあまり発掘されていないのが現状なので……」

 令和が補足する。平成が呟く。

「影が薄い……これはキャラ付け失敗か?」

「な、なんてこと言うねん!」

「群馬県の三ツ寺遺跡みつでらいせきなどから当時の首長居館などの様子がうかがえます。首長の住居だけでなく、祭祀用の建物なども併設されていたようです」

 令和の説明に平成は感心したように頷く。

「時期は大分違うが、岩宿遺跡も群馬県だったな?」

「そうですね。日本の考古学上、重要な発見が多い場所かもしれません」

「現代でもまだまだ秘境の土地って感じだしな……」

「それについてもコメントは差し控えさせて頂きます……」

 令和は再び平成から目を逸らす。古墳が首を傾げる。

「どないしたんや?」

「い、いえ、なんでもありません……」

「ほうか、とにかく現代の方でもっと発掘頑張ってや! そうしたら色々思い出すから!」

「そ、そういうものなのですか?」

 古墳の言葉に令和が戸惑う。

「そういうものやねん! おっと、我が家に着いたで」

 古墳は竪穴住居を指差す。平成が少し驚く。

「周囲には柱を使った『掘立柱建物ほったてばしらたてもの』が多いのに……古墳さんは竪穴住居なのですね」

「この頃はまだまだメジャーやで。なんとなく落ち着くから住んどんねん……どうぞ」

「落ち着くのが一番だからな……失礼します」

 平成たちが住居の中に入る。

「これは……床が四角いですね」

「それがどうかしたのかい?」

「日本の木造平屋のルーツと言いますか、原型がこの時期に完成したのだなと……」

 住居を見回しながら令和が呟く。古墳が笑う。

「ルーツならこれもちゃうか?」

 古墳が住居の壁際の設備を指し示す。令和が驚く。

「こ、これは『かまど』ですか?」

「せや、この時期に朝鮮半島の方から伝わってな、お米を蒸して食べることが出来るようになったんや。火を沢山使うから、壁際に設置した。『台所』のルーツみたいなもんやな」

「なるほど……炉は灯りや暖房としても使いますが、これはより調理に特化した……」

「カマドの熱を利用した暖房設備もあったで、渡来人の住居には『オンドル』が……」

「『オンドウルルラギッタンディスカ 』」

「は、はあ?」

「ああ、彼は今『オンドゥル語』を話しているだけです、気にしないで下さい……」

 令和が戸惑う古墳を落ち着かせる。

「い、いや、せやかて気になるやろ……」

「一通り台詞を言ったら落ち着くと思うので放っておきましょう」

「そういうものなんか……」

「……あ、悪い、落ち着いた……」

「なんやったんや、今のは……」

「現代の奇病のようなものです」

「そ、それは厄介やな」

「ええ……」

「ネットミームを構わず喚き散らす、『厄介オタク』ってだけでしょう……」

 令和が心底呆れたようにため息をつく。古墳は調理を続ける。

「……よし、出来たで! 料理の完成や!」

 古墳は器に料理を盛って並べる。令和が器に注目する。

「これは土器ですか?」

「そうや、堅い土器、『須恵器すえき』や盛りつけるのには適している。ただ……堅くて火にかけるは出来ない、その代わり、鍋には赤っぽくて柔らかい土器、『土師器はじき』を使うようになったんや。須恵器同様に朝鮮半島からの伝来されたものやで」

「ハジキ……物騒だな」

「物騒なのは平成さんの発想ですよ……」

 まだ思考が暴走気味な平成を令和が冷ややかに見つめる。そこに男が入ってくる。

「古墳さん! ……埴輪たちが巨大化して暴れ出している!」

「なんやと 」

 男の報告に古墳たちが驚愕する。

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