令和ちゃんと平成くん~新たな時代、創りあげます~

阿弥陀乃トンマージ

第4話(4) 弥生にできることはまだあるかい

「む……」

「い、今、隣のクニが攻めてきたって! どうする 」

「平成さん、落ち着いて下さい!」

 令和が平成を落ち着かせようとする。

「いや、落ち着けって言われても……!」

「ちょっと静かにしてくれる?」

「あ、ああ……」

 弥生がゆっくりと立ち上がる。入ってきた男に問う。

「攻めてきたって、どれくらいの規模で? 今どの辺かしら?」

「いや、十数人ほどだが……濠の向こう側に陣取っている」

「ふむ……本格的な侵攻というわけではないようね」

 弥生が顎に手をやって呟く。

「ど、どうする 」

「長たちは?」

「今、大陸からの使者を見送りにみんな出払っていて……」

「送別会の二次会でカラオケか?」

「だから、平成さんは静かにしていて下さい」

 令和が平成に注意する。

「はあ……アタシが判断しろってことね……」

 弥生がため息をつく。

「打って出るか 」

「ちょっと待って……そもそもなんで攻めてきたのか分かる?」

「話によれば、どうやら水で揉めているらしい」

「水?」

 男の言葉に平成が首を捻る。令和が淡々と説明する。

「人口増加によって、もっと食糧を確保する必要が生まれました。つまり水田の面積を広げるということ……それに伴い水田に引く水の奪い合いも起こりました」

「この時期はそういう水の奪いあいが戦争に発展していくってわけ……」

「せ、戦争 」

 弥生の発言に平成が驚く。男が頷く。

「やるか!」

「やらないわよ! アンタも落ち着きなさい!」

「し、しかし、どうすれば!」

「近頃、日照りが続いていたからね……まあ、アタシなりのやり方でいくわ」

「アタシなりの?」

 令和が首を傾げる。弥生は建物の外に出る。

「ふむ……一応確認したけど、思ったより数は多くなかったわね」

 物見やぐらから下りてきた弥生は呟く。男が焦ったように声を上げる。

「そ、それでも、今にも攻めてきそうだぜ 」

「だから落ち着きなさいよ……本格的に一戦交えるつもりなら、もっとちゃんと武装してくるはずよ……槍や盾を持って鎧も身に着けてね」

 弥生が歩きながら冷静に話す。男が問う。

「と、ということは?」

「隣のクニの血の気の多い連中が勢いに任せて突っ込んできたんでしょう……こんなケンカ、買っても損するだけよ」

「で、でも、なんとかして追い返さないと……矢でも放つか 」

「ケンカじゃ済まなくなるでしょ! 絶対にやめなさい!」

「じゃ、じゃあ、石でも投げて……」

「それでも怪我人が出るでしょう! 大事になるわ!」

「ううむ……」

 弥生に叱られ、男は黙り込む。平成が口を開く。

「……要は追い返すことが出来れば良いんだろう? 『ガスの元栓締めたか?』とか言えば不安になって帰るんじゃねえの?」

「ガスがありませんよ……」

 令和が呆れ気味に呟く。

「でもさ、ああいうのって不安にならねえ?」

「私は『オール電化住宅』なのでそういう不安はありません」

「おお……流石だねえ」

「感心している場合ではないでしょう……」

 令和が頭を軽く抑える。男が再び口を開く。

「ほ、本当にどうするんだ  素直に話し合いに応じるとは思えないぞ 」

「大事なお客も来ているのよ、争いは避けるわ」

 弥生は令和と平成を指し示す。

「ど、どうやって 」

「だからアタシなりのやり方でよ」

「その……弥生さんなりのやり方とは?」

「『タイマン』か 」

「だから平成さんは黙っていて下さい」

「……『鬼道』を用いるわ」

「き、鬼道 」

「ええ」

 弥生は令和の問いに答えて、集落の中でも最も大きな建物に入っていく。

「ここは確か……祭殿だったか?」

「ええ……」

 弥生の後に続いて建物に入った平成が令和に問い、令和も頷く。平成が続けて問う。

「その鬼道ってのは何だ?」

「諸説ありますが……いわゆる『呪術』的なものかと……」

「マジで  弥生ちゃん、『領域展開』とか出来んの 」

「……よく分かんないけど出来るわよ」

「うおお! す、すげえ!」

「弥生さん、答えるのが面倒になった……」

「ちょっと集中したいから、静かにしてくれる?」

「は、はい……」

「……」

 祭殿の中央に座った弥生が何やら唱える。唱え終わると、弥生の首飾りの真ん中が光る。

「! 『勾玉まがたま』が光った 」

「ねえ、『もうすぐ荒れるよ』」

「え  …… 」

 しばらく間を置いて、もの凄い雨音がする。平成たちが建物の外を覗き見る。

「な、なんて大雨だ……!」

「こ、これが弥生さんの能力……」

「半日はこの調子ね……連中も色んな意味で頭が冷えたんじゃないの?」

 弥生は頭を抑えながら立ち上がるが少しふらつく。令和が声をかける。

「だ、大丈夫ですか?」

「ええ、なんとかね……ちょっと様子を見に行きましょうか」

 弥生たちが祭殿を出て、物見やぐらに向かい、様子を伺う。男が叫ぶ。

「おおっ! 奴ら、引き下がっていくぞ!」

「……水については、落ち着いたらクニの長同士で話し合いの場をもってもらうべきね」

「いやあ助かったよ、弥生さん!」

「……最悪の事態は回避出来て良かったわ……ん?」

 集落から離れていく者たちの中に、弥生と似たような恰好だが、色は髪の毛を含め、真白い少女の姿があった。令和と平成もそれに気づく。

「平成さん、あれは……?」

「あの雰囲気……あの娘も時代か? 弥生ちゃん、1Pカラーに心当たりはあるかい?」

「無いわよ。ってか、なんでこっちが2Pカラー扱いなのよ!」

「……誰なのでしょうか?」

 降りしきる大雨の中、令和は首を傾げる。

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