令和ちゃんと平成くん~新たな時代、創りあげます~
第4話(2) 夢の国のねずみ返し
「諸説ってさあ……」
平成が呆れる。弥生が構わず続ける。
「長年に渡って論争が行われているのよ」
「『邪馬台国』はどこにあったかというようなことですか?」
「大体そんな感じね」
令和の問いに弥生が頷く。平成が苦笑する。
「いやいや、そんな大層なもんじゃねえだろう?」
「『畿内説』と『九州説』みたいに数カ所候補があるのよ」
「見当はついているのですか?」
令和が尋ねる。
「ちょっと待って……『夫れ楽浪海中に倭人有り。分れて百余国と為る……』」
「待った! いきなり何を読んでいる 」
「何って……『漢書』地理志に決まっているじゃない」
声を上げる平成に対し、弥生は眉をひそめる。
「決まっているじゃないって!」
「確認されている中では、日本について書かれた一番初めの史料よ」
「一番初め?」
「ええ、紀元前1世紀くらいかしらね」
「さかのぼり過ぎだろ!」
「ええっと……じゃあこっちね、『建武中元二年……』」
「いつの話だ!」
「57年、1世紀の頃の話ね」
「だから何を読んでいるんだよ!」
「『後漢書』東夷伝よ」
「それは確か……奴国の王が金印を授かったという有名な記述ですね……」
「そう、こういうのね」
弥生が小さい金印を取り出して、令和に見せる。令和と平成が驚く。
「ええっ 」
「なんでそんなの持ってんだよ 」
「犬が近所を堀ったら出てきたのよ」
「そ、そんな馬鹿な……」
弥生の思わぬ答えに平成が唖然とする。
「……こっちの方が分かりやすいかしらね……まず帯方郡から水上を七千余里進んで……」
「こ、今度は何を読んでいる 」
「『三国志』の『魏志』倭人伝よ」
「さ、三国志 」
令和が再び驚く。平成が呆れ気味に呟く。
「漫画とかでしか読んだことねえぞ……」
「これには2世紀の日本のことが書かれているわね」
「だからさかのぼり過ぎなんだよ! 大体帯方郡って朝鮮半島の方だろ?」
「よく知っているわね、そこから辿っていけば、アタシのうちも分かるはず……」
「気が遠くなる作業だな……」
「だって記録がないんだからしょうがないでしょ!」
弥生が三冊の古い書物を手に憤慨する。令和が呟く。
「……ご近所から金印が出土したことである程度絞れるのでは?」
「へ?」
「……それはどういうこったよ、令和ちゃん?」
「大陸の国家から金印を授かったということはある程度の力を有した権力者が治めている場所だという証……それなりの規模の集落が弥生さんのお住まいなのでは?」
「ほ、ほう……な、なかなか鋭い指摘ね。合格よ」
「合格?」
令和が首を傾げる。
「貴女のことを試させてもらったわ、なるほどこの近くに大きな『クニ』があったようななかったような……いや、あるわね! そう、そこにアタシの家があるわ!」
「試したって絶対嘘だろ……」
平成が呟く。弥生は令和の肩をポンポンと叩く。
「令和って言ったわね、平成よりもなかなか見所があるわ!」
「あ、ありがとうございますと言って良いのかどうか……クニはムラとは違うのですか?」
「いくつかのムラが集まってクニが形成されたのよ。見た方が早いわね、案内するわ!」
弥生が意気揚々と歩き出し、令和たちがその後に続く。しばらく歩くと、深い濠に囲まれた大きな集落が見えてくる。令和が声を上げる。
「すごい、集落が全て濠に囲まれている!」
「『環濠集落』って言うやつだな……こんなでかい集落の場所を忘れるかね……」
平成は呆れ気味に小声で呟く。弥生が手を前方にかざす。
「入口はあそこね、我が家に招待するわ!」
「ほ、本当に大きいですね、どれくらいの広さなんでしょうか?」
「広さ? えっと……なんだっけ、約50万㎡だっけか?」
弥生は平成に問う。平成は頷く。
「大体、浦安にある『夢の国』と同じくらいの大きさだな」
「す、凄いですね……」
令和は感嘆とする。平成が視線を周囲に向ける。
「ふむ、竪穴住居をまだ使っているんだな……」
「高い建物がありますね?」
「『高床倉庫』よ。縄文のころからあったみたいだけど、アタシのころに広まったわね」
弥生が胸を張る。令和が尋ねる。
「それはどうしてでしょうか?」
「稲作で収穫された稲穂などを蓄える為の倉が必要になったからよ!」
「な、なるほど……あ、あれはなんでしょうか?」
令和は高床倉庫の柱と床が接する部分に付けられている、円形や角の丸い長方形をした板を指差す。弥生が笑って答える。
「ああ、あれは『ねずみ返し』よ」
「な、何かの技ですか?」
「技って言う程大したものではないわ……稲穂を狙って倉庫の中に入ろうとねずみが柱を登ってくるからね、倉庫の中に侵入出来ないようにした仕掛けよ……」
「そ、そうなのですか……」
「夢の国ではヒーローでもここではすっかり憎まれ役だな……」
平成は足元に隠れていたねずみに対しふっと微笑む。弥生が尋ねる。
「どうかした、平成?」
「いや、なんでも……しかし防犯対策はばっちりだな……」
「……ふふっ」
「どうかしたのですか、弥生さん?」
何かを思い出したかのように笑う弥生に令和が尋ねる。
「ちょっと前『ねずみ捕り器』千個買いませんかって営業のサラリーマンが来てね……」
「せ、千個 」
「間に合っているって、試供品だけ受け取って帰したわ……誤発注してしまったとかなんとか言っていたけど……それにしてもここに持ってこられてもね~」
「ふふっ、本当にそうですよね……平成さん?」
「……それ、俺の親父だ」
「ええっ……!」
両手で頭を抑える平成に令和はなんと声をかけたものかと困惑する。
平成が呆れる。弥生が構わず続ける。
「長年に渡って論争が行われているのよ」
「『邪馬台国』はどこにあったかというようなことですか?」
「大体そんな感じね」
令和の問いに弥生が頷く。平成が苦笑する。
「いやいや、そんな大層なもんじゃねえだろう?」
「『畿内説』と『九州説』みたいに数カ所候補があるのよ」
「見当はついているのですか?」
令和が尋ねる。
「ちょっと待って……『夫れ楽浪海中に倭人有り。分れて百余国と為る……』」
「待った! いきなり何を読んでいる 」
「何って……『漢書』地理志に決まっているじゃない」
声を上げる平成に対し、弥生は眉をひそめる。
「決まっているじゃないって!」
「確認されている中では、日本について書かれた一番初めの史料よ」
「一番初め?」
「ええ、紀元前1世紀くらいかしらね」
「さかのぼり過ぎだろ!」
「ええっと……じゃあこっちね、『建武中元二年……』」
「いつの話だ!」
「57年、1世紀の頃の話ね」
「だから何を読んでいるんだよ!」
「『後漢書』東夷伝よ」
「それは確か……奴国の王が金印を授かったという有名な記述ですね……」
「そう、こういうのね」
弥生が小さい金印を取り出して、令和に見せる。令和と平成が驚く。
「ええっ 」
「なんでそんなの持ってんだよ 」
「犬が近所を堀ったら出てきたのよ」
「そ、そんな馬鹿な……」
弥生の思わぬ答えに平成が唖然とする。
「……こっちの方が分かりやすいかしらね……まず帯方郡から水上を七千余里進んで……」
「こ、今度は何を読んでいる 」
「『三国志』の『魏志』倭人伝よ」
「さ、三国志 」
令和が再び驚く。平成が呆れ気味に呟く。
「漫画とかでしか読んだことねえぞ……」
「これには2世紀の日本のことが書かれているわね」
「だからさかのぼり過ぎなんだよ! 大体帯方郡って朝鮮半島の方だろ?」
「よく知っているわね、そこから辿っていけば、アタシのうちも分かるはず……」
「気が遠くなる作業だな……」
「だって記録がないんだからしょうがないでしょ!」
弥生が三冊の古い書物を手に憤慨する。令和が呟く。
「……ご近所から金印が出土したことである程度絞れるのでは?」
「へ?」
「……それはどういうこったよ、令和ちゃん?」
「大陸の国家から金印を授かったということはある程度の力を有した権力者が治めている場所だという証……それなりの規模の集落が弥生さんのお住まいなのでは?」
「ほ、ほう……な、なかなか鋭い指摘ね。合格よ」
「合格?」
令和が首を傾げる。
「貴女のことを試させてもらったわ、なるほどこの近くに大きな『クニ』があったようななかったような……いや、あるわね! そう、そこにアタシの家があるわ!」
「試したって絶対嘘だろ……」
平成が呟く。弥生は令和の肩をポンポンと叩く。
「令和って言ったわね、平成よりもなかなか見所があるわ!」
「あ、ありがとうございますと言って良いのかどうか……クニはムラとは違うのですか?」
「いくつかのムラが集まってクニが形成されたのよ。見た方が早いわね、案内するわ!」
弥生が意気揚々と歩き出し、令和たちがその後に続く。しばらく歩くと、深い濠に囲まれた大きな集落が見えてくる。令和が声を上げる。
「すごい、集落が全て濠に囲まれている!」
「『環濠集落』って言うやつだな……こんなでかい集落の場所を忘れるかね……」
平成は呆れ気味に小声で呟く。弥生が手を前方にかざす。
「入口はあそこね、我が家に招待するわ!」
「ほ、本当に大きいですね、どれくらいの広さなんでしょうか?」
「広さ? えっと……なんだっけ、約50万㎡だっけか?」
弥生は平成に問う。平成は頷く。
「大体、浦安にある『夢の国』と同じくらいの大きさだな」
「す、凄いですね……」
令和は感嘆とする。平成が視線を周囲に向ける。
「ふむ、竪穴住居をまだ使っているんだな……」
「高い建物がありますね?」
「『高床倉庫』よ。縄文のころからあったみたいだけど、アタシのころに広まったわね」
弥生が胸を張る。令和が尋ねる。
「それはどうしてでしょうか?」
「稲作で収穫された稲穂などを蓄える為の倉が必要になったからよ!」
「な、なるほど……あ、あれはなんでしょうか?」
令和は高床倉庫の柱と床が接する部分に付けられている、円形や角の丸い長方形をした板を指差す。弥生が笑って答える。
「ああ、あれは『ねずみ返し』よ」
「な、何かの技ですか?」
「技って言う程大したものではないわ……稲穂を狙って倉庫の中に入ろうとねずみが柱を登ってくるからね、倉庫の中に侵入出来ないようにした仕掛けよ……」
「そ、そうなのですか……」
「夢の国ではヒーローでもここではすっかり憎まれ役だな……」
平成は足元に隠れていたねずみに対しふっと微笑む。弥生が尋ねる。
「どうかした、平成?」
「いや、なんでも……しかし防犯対策はばっちりだな……」
「……ふふっ」
「どうかしたのですか、弥生さん?」
何かを思い出したかのように笑う弥生に令和が尋ねる。
「ちょっと前『ねずみ捕り器』千個買いませんかって営業のサラリーマンが来てね……」
「せ、千個 」
「間に合っているって、試供品だけ受け取って帰したわ……誤発注してしまったとかなんとか言っていたけど……それにしてもここに持ってこられてもね~」
「ふふっ、本当にそうですよね……平成さん?」
「……それ、俺の親父だ」
「ええっ……!」
両手で頭を抑える平成に令和はなんと声をかけたものかと困惑する。
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