先輩達と話してもらいます

相澤は、仕事ができる男だった。
ネガティブでいつもブツブツ言っていたけれど、いざ仕事が始まるとしっかり仕事をこなしているみたい。

「いやー順応性高いですね彼。どこかの溝沼さんとは大違いです」

「私じゃないの！」

先輩にも自然と一目置かれ、上司達も相澤に仕事を任せたり。
凄いわ相澤。休憩中に、文字を打ち込んでいる相澤の机に行くと、相澤はフッと眉間のシワを緩めた。

「相澤、頑張ってるみたいね」

「え...いや、普通ですよ」

そう言いながら物凄い勢いでキーボードを叩く相澤を見て私は眉を八の字にした。

「文字を打つのだって、早いじゃない」

「いや、ボク陰キャヲタクなんで友達もいなかったですし、休みの日とかずっと家でパソコンゲームしてたんで」

「えっ？え、えぇ」

「あぁ...すいません」

相澤は、とても悲しそうな顔をして俯いた。

「え？なんで謝るのよ」

「いや、ほんとすいません」

「相澤クン」

「えっ...はい」

私達が話していると、化粧の濃い先輩３人組が、相澤に話しかけてきた。
相澤は、あからさまに動揺して目を伏せた後、私を見た。

「お疲れ様～こっち来てまだ日にち経ってないのにお仕事よく頑張ってるよね～相澤クン」

「えっ...あ、はい」

なんで私をみるのよ。

「相澤クンって随分若いよね。何歳なの？」

「えっ...18歳...」

「じゅうはち！？へーわかーい。アタシ等25歳なんて、相澤クンにとっては、おばさんかなー？」

「もー！らってなによ！ひどいー！まぁ、相澤クン確かに若いしなー」

「えっ...」

相澤は、明らかに私に助けてくれという目線を向けてきた。やめなさいよ。そんな目で見られても私にはどうすることもできないわよ。この人達と私全然話した事ないし。

「彼女とかいないのー？」

「えっ...」

だからなんで私をみるのよ！！

「いませんけど...」

「へー！そーなんだ。意外～相澤クン結構可愛い顔してるし、仕事もできるからてっきり～」

「いえ...」

相澤は、限界といった様子で席を立った。

「ボク、トイレに...」

「えー？また話そうねー？」

３人の化粧の濃い先輩達は、３人でヒソヒソ話しながら、自分の机に帰っていった。
仕事ができると女にモテるのね。

女の先輩達は、自分達の仕事を終えた後も相澤の机に来て、手を振って帰っていった。

「相澤クン、バイバーイ」

「あ...はぁ」

新入社員の私達は基本的に一番最後まで仕事をしている。先輩や上司達はさっさと帰って、職場に残るのは私達だけ。

「なんですか...あれ！怖い...怖い怖い怖い怖いよ！！」

相澤は、人の少ないこの場に響き渡るような声で叫んで頭を抱えていた。

「ど、どうしたの？具合でも悪いの？」

八木杉が心配して、相澤の顔を覗き込むと、相澤は八木杉の腕をガッと掴んで、

「八木杉さん！変です！この会社！明らかにおかしいです！」

「ど、どういうこと？」

首をかしげる八木杉に、私は腕を組んで微笑んでいた。

「わかるわよ。相澤、この会社。休みもないしブラックだし、上司は嫌な奴ばっかりだし」

「そうじゃないんですよ！それはもう前提みたいなもんでしょ！？」

相澤は叫んだ。成る程。それ以上なのね。相澤にとって、

「なんであんな美人の女の先輩がしかも３人も！ボクなんかに話しかけてくるの？罰ゲーム？おかしいよね？何！？会社の策略？怖い？八木杉さんや鳴宮さんはともかくなんでボク！？」

女の先輩達に話しかけられるのってそんなにおかしい事なのね。