悪役令嬢にはブラック企業で働いてもらいます

ガイア

ブラック企業で働いてもらいます

「溝沼君、これコピーやっといて」

「.....」

隣の席の悪魔の顔に大きく「返事しろ」と書いてあった。

「.....はい」

溝沼灰子は、歯をギリギリと食いしばった。
私の隣の席では、にっこりと悪魔が笑っている。
こんな屈辱...早く終わらせてやるわ。

ライヴァ王国の、マスカレイド家の令嬢だった私、マスカレイド・ライヴァは、今、お気に入りのワインレッドのドレスを脱いで、黒いスーツなるものに身を包み溝沼灰子(どぶぬまはいこ)として奴隷のように働かされている。

自慢だった金髪縦ロールは、灰色のショートカットにされている。見た目だって華やかで美しかったのに、今じゃどこにでもいるその辺の町人と変わらない次の日には忘れられているような平凡な顔になっていた。

私が令嬢だった頃、かくかくしかじかあった後、色々あって処刑された後私は気がついたらこの日本という場所にこんな格好で転生してブラック企業で働かされる事になっていたってわけ。

そして私がしっかりコピーしているか横目で見張ってる外面と顔だけはいい189センチの長身男、鳴宮総司(なるみやそうじ)は、見た目だけ見れば王子様のような外見をしているけれど、実際は私がしっかりここで働いているか監視する監視役。

しっかりコピーを終えてクソハゲに、コピーを渡す。

「ん」

この私がコピーしてやったっていうのにこいつ、お礼もないわけ?
首をはねるわよクソハゲボケナス野郎!

と、悪口を言うのをぐっとこらえて私は席に戻る。
私は本当は即地獄行きだったみたいなんだけれど...。

***

総司に初めて会った時、説明された。

「この世界には【蜘蛛の糸】っていう面白い話があってね。どうしようもないあんたみたいな極悪女でも、一つだけ助かる方法を慈悲深い神様が与えてくださってるわけだ」

「助かる、方法?」

「そう。助かる方法は三つ。この世界で社会の奴隷として働いてそのクソみたいに歪みきった性格を直し、【人の為に涙を流せるようになる事】それと」

「ちょっと!言い過ぎよ!それと、今三つ言ったじゃないの!まだあるっていうの?」

私は指を三本立てて男に見せつけた。

「え?」

「奴隷として働く、歪みきった性格を直す、人の為に涙を流す」

きょとんとしている男に、指折りで数えてみせると、

「ははー、お気楽な脳みそだぁ。奴隷として働くのは当たり前でしょう?民衆に奴隷以下の扱いをしてたあんたなら奴隷として働く食らい雑作もないはずだ」

男はゾッとするような表情を浮かべていた。
一見笑顔が張り付いているように見えて、全く目が笑っていなかったのだ。

「二つ目は【この場所で認められ、仲間を作る事】三つ目は.....」

「三つ目は?」

男は人差し指を口元に当ててウインクした。

「ないしょ★」

「はぁ!?」

「一年間、猶予をあげるよ。その間に三つ達成できなかったら即地獄コース。達成できたら転生させてくれるってさ。神様は慈悲深いなぁ本当に」

***

そんなに私大したことしてないのよ?なのに、悪業だなんて。
一年間、一年間よ。今まだこっちに来て一週間しか経ってないのに!

勿論嫌だって言ったわ。
でも、逃げる事は許されないみたい。
私の胸には黒くて変な形をした刻印が入っている。
この刻印は、総司によると『私に対する恨みや怨念』が呪いとして浮き出ているらしくて、総司に反抗的な態度を取ったり、途中で償いを放棄したりすると、私の心臓は握り潰されたような痛みを味わう仕組みになっているのよ。

そう、あれは私がここで働く事になった初日の事よ。

「溝沼君、早速だけど、これコピーやっといて」

「誰に向かって口を聞いているの?私を誰だと心得ている...ッゥ...グッ...ゥアアア!!」

痛い痛い痛い痛い胸のあたりが、心臓に大きな爪を突き立てられているような感覚が私を襲った。
私が、痛みで顔を歪ませ膝をついて苦しんでいる時に、助けるわけもなくこのドS悪魔は平然とした顔で隣に立っていた。

「お、おい、溝沼君?」

クソハゲ野郎でさえ私の心配をしているような声がふってきたというのに、

「あぁ、大丈夫ですよ。彼女ちょっと頭がおかしいだけなので。たまにこうして胸に封印していた魔神アレクシオスが暴れ出すらしいんですよ。厨二病ってやつです」

カラッとしてこいつは私を指差した。

「コピーなら魔神を封じ込めた後にやらせますので」 

ぽかんとするクソハゲを置いて、私の腕をガシッと掴んで無理やり立たせ机に戻したドS悪魔は、私に微笑んだ。

「体調は、大丈夫?」

ヒューヒューと息する私に、全く心配していない様子のドS悪魔は飄々とそんな質問を投げかけてきたの。

「上等よ!!あんた、私が生まれ変わったら私の奴隷にして一生ボロ雑巾のように使い潰してやるんだから!覚えてなさいよこの悪魔!!」

私は、隣の席のドS悪魔をにらみつけながら心の中で怒鳴りつけていた。

負けるもんですか...!!

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