おとぎの店の白雪姫【新装版】
第20話 恋の予感はお花とともに
おとぎ町に来てから、あっという間に三ヶ月が過ぎた。最近ではどんどん暑い日が増えてきて、季節が夏へと向かっていることを、ましろはまぶしい日差しで感じていた。
そんなある日、ましろはクラスの女の子たちの恋バナを「ふむふむ」と聞いてた。
「となりのクラスの佐原君と結衣ちゃん、付き合ってるんだって~!」
「えぇっ! ウソ、いつの間に⁈」
「月曜日の放課後に、佐原君が告白したんだってさ!」
ましろは、よく知ってるなぁと感心しながらうなずいていた。
「付き合うって、どういうことするの?」
ましろがほんのちょっとの興味でたずねると、女の子たちは「ましろちゃんってば!」と顔を赤らめた。
「そりゃあ、二人で学校から帰ったり、お出かけしたり……」
「ご飯とかお菓子を作ってあげたり~」
「手をつないだり……、ほら、キスとか‼︎」
キス!
女の子たちの「キャ~!」という悲鳴の真ん中で、ましろも想像してドキドキしてしまった。
「ましろちゃん、私の『恋らびゅ』貸してあげるから、それで勉強しなよ!」
友達が言ったそれは、ましろもタイトルだけは知っていた大人気少女マンガ。『恋してらびゅーん!』だ。
「わっ、わたしにはまだ早いかな……」
「そんなことないっ! よーんーでっ!」
そして、戸惑うましろはグイグイせまられ、ついに『恋らびゅ』を貸してもらう約束をしたのだった。
でも、ちょっと苦手なんだよなぁ……。
ましろは以前、桃奈から「おじさんには彼女はいないのか」という話をされた時もそうだったのだが、実は恋愛の話が苦手だった。理由は、よく分からないからだ。
好きな人がたくさんいる友達もいるけれど、ましろは、まだ初恋だってしたことがない。
「恋か~」
口に出したからといって、すぐに恋が降ってくるわけがない。
とりあえず、『恋らびゅ』を読んでみよう。でも、恥ずかしいから、りんごおじさんにはナイショにしよ。
ましろは小学校の帰り道、おとぎ商店街の中をぶらぶらと歩きながら、《りんごの木》を目指して歩いていた。
今日は、アリス君の新作スイーツを試食させてもらうのだ。「すっげぇうまいから楽しみにしとけ!」と、目付きの悪い目を細くして笑っていたアリス君への期待は、学校にいる間もどんどんふくらんでいた。
どんなスイーツなのかな~? わくわくする!
「よっ! おつかれ!」
ましろが上機嫌でスキップをしていると、背中側からウワサのアリス君の声がした。そして、スーッと自転車で隣に並んで来る。
「アリス君! 商店街は、自転車に乗っちゃダメなんだよ!」
「へいへい」
ましろが注意すると、アリス君は渋々と自転車を降りた。自転車のカゴには高級な焼き菓子屋さんの紙袋が入っていて、つい注目してしまう。
「お菓子買ったの⁈」
「中身は、図書館の本だ。ましろ、相変わらず食い意地張ってんなぁ」
アリス君にクスクスと笑われ、ましろは恥ずかしくなってしまった。けれど、お菓子屋さんの紙袋を再利用するアリス君もアリス君だ。勘違いしたって仕方がないと思う。
「どんな本借りたの?」
「洋菓子のレシピ本だろ、フランス語の本だろ、あと栄養学と、花の辞典」
「お花?」
ましろが聞き返すと、アリス君は辞典の表紙を見せてくれた。とても分厚い辞典だ。
「白雪店長が、皿は花かごみたいなもんだ、って言ってたんだよ。ようは、季節の華やかさを意識するってことな」
「花かご……」
たしかに、りんごおじさんの料理は花のようかもしれない。色鮮やかな花、落ち着いたきれいな花、満開の花──。お皿の上は、いつも見ていて楽しくなる。
「花のモチーフのスイーツとか、食用花もあるだろ? その辺の参考にしようと思ってさ」
「今日の新作も?」
「新作は器が花柄で……」
アリス君の話の途中で、ましろは「あっ」と声をあげた。
「《花かご》さんだ!」
《りんごの木》の前に、たくさんの花を両手に抱えたお兄さんが立っていた。両手がふさがっているため、ドアを開けることができないようだ。
「やぁ! ましろちゃん、有栖川君! ちょっとドアを開けてくれるかい?」
***
おとぎ商店街には、お花屋さんが一軒ある。お店の名前は《花かご》。小さいながらも、種類は充実しているし、フラワーアレンジメントもしてくれる。
ご近所のファミリーレストラン《りんごの木》も、《花かご》の季節の花を定期的に届けてもらい、テーブルやレジのそばに飾っていた。
ましろは、《花かご》の花を毎回楽しみにしていて、花が届く月曜日の夕方が、いつも待ち遠しかった。
今日出会ったのは、《花かご》の長男である重野大地君で、ちょうど花を届けに来てくれたところだった。
「こんにちはー。お花のお届けに上がりました!」
お店のドアベルをカランカランと鳴らしながら、大地君はお店に入った。ましろとアリス君もそれに続く。
大地君は大柄で、柔らかい性格、そして柔らかそうなおなかをした27歳だ。
「うわぁ、今週もきれいなお花だね!」
「だろう? これは、サルビアの花なんだ。花言葉は、『家族愛』。いいだろう?」
大地君は、鮮やかな赤色の切り花を持っていた。とてもきれいでかわいらしい花だ。
「すてきですね。すぐに飾らせてもらいます」
りんごおじさんは、うれしそうに花を受け取り、奥に花びんを探しに行こうとした。けれど、それを大地君が引き止めた。
「まっ、待ってください。実は、相談があるんです!」
なんだろう? と、ましろとりんごおじさんは思わず顔を見合わせた。
そんなある日、ましろはクラスの女の子たちの恋バナを「ふむふむ」と聞いてた。
「となりのクラスの佐原君と結衣ちゃん、付き合ってるんだって~!」
「えぇっ! ウソ、いつの間に⁈」
「月曜日の放課後に、佐原君が告白したんだってさ!」
ましろは、よく知ってるなぁと感心しながらうなずいていた。
「付き合うって、どういうことするの?」
ましろがほんのちょっとの興味でたずねると、女の子たちは「ましろちゃんってば!」と顔を赤らめた。
「そりゃあ、二人で学校から帰ったり、お出かけしたり……」
「ご飯とかお菓子を作ってあげたり~」
「手をつないだり……、ほら、キスとか‼︎」
キス!
女の子たちの「キャ~!」という悲鳴の真ん中で、ましろも想像してドキドキしてしまった。
「ましろちゃん、私の『恋らびゅ』貸してあげるから、それで勉強しなよ!」
友達が言ったそれは、ましろもタイトルだけは知っていた大人気少女マンガ。『恋してらびゅーん!』だ。
「わっ、わたしにはまだ早いかな……」
「そんなことないっ! よーんーでっ!」
そして、戸惑うましろはグイグイせまられ、ついに『恋らびゅ』を貸してもらう約束をしたのだった。
でも、ちょっと苦手なんだよなぁ……。
ましろは以前、桃奈から「おじさんには彼女はいないのか」という話をされた時もそうだったのだが、実は恋愛の話が苦手だった。理由は、よく分からないからだ。
好きな人がたくさんいる友達もいるけれど、ましろは、まだ初恋だってしたことがない。
「恋か~」
口に出したからといって、すぐに恋が降ってくるわけがない。
とりあえず、『恋らびゅ』を読んでみよう。でも、恥ずかしいから、りんごおじさんにはナイショにしよ。
ましろは小学校の帰り道、おとぎ商店街の中をぶらぶらと歩きながら、《りんごの木》を目指して歩いていた。
今日は、アリス君の新作スイーツを試食させてもらうのだ。「すっげぇうまいから楽しみにしとけ!」と、目付きの悪い目を細くして笑っていたアリス君への期待は、学校にいる間もどんどんふくらんでいた。
どんなスイーツなのかな~? わくわくする!
「よっ! おつかれ!」
ましろが上機嫌でスキップをしていると、背中側からウワサのアリス君の声がした。そして、スーッと自転車で隣に並んで来る。
「アリス君! 商店街は、自転車に乗っちゃダメなんだよ!」
「へいへい」
ましろが注意すると、アリス君は渋々と自転車を降りた。自転車のカゴには高級な焼き菓子屋さんの紙袋が入っていて、つい注目してしまう。
「お菓子買ったの⁈」
「中身は、図書館の本だ。ましろ、相変わらず食い意地張ってんなぁ」
アリス君にクスクスと笑われ、ましろは恥ずかしくなってしまった。けれど、お菓子屋さんの紙袋を再利用するアリス君もアリス君だ。勘違いしたって仕方がないと思う。
「どんな本借りたの?」
「洋菓子のレシピ本だろ、フランス語の本だろ、あと栄養学と、花の辞典」
「お花?」
ましろが聞き返すと、アリス君は辞典の表紙を見せてくれた。とても分厚い辞典だ。
「白雪店長が、皿は花かごみたいなもんだ、って言ってたんだよ。ようは、季節の華やかさを意識するってことな」
「花かご……」
たしかに、りんごおじさんの料理は花のようかもしれない。色鮮やかな花、落ち着いたきれいな花、満開の花──。お皿の上は、いつも見ていて楽しくなる。
「花のモチーフのスイーツとか、食用花もあるだろ? その辺の参考にしようと思ってさ」
「今日の新作も?」
「新作は器が花柄で……」
アリス君の話の途中で、ましろは「あっ」と声をあげた。
「《花かご》さんだ!」
《りんごの木》の前に、たくさんの花を両手に抱えたお兄さんが立っていた。両手がふさがっているため、ドアを開けることができないようだ。
「やぁ! ましろちゃん、有栖川君! ちょっとドアを開けてくれるかい?」
***
おとぎ商店街には、お花屋さんが一軒ある。お店の名前は《花かご》。小さいながらも、種類は充実しているし、フラワーアレンジメントもしてくれる。
ご近所のファミリーレストラン《りんごの木》も、《花かご》の季節の花を定期的に届けてもらい、テーブルやレジのそばに飾っていた。
ましろは、《花かご》の花を毎回楽しみにしていて、花が届く月曜日の夕方が、いつも待ち遠しかった。
今日出会ったのは、《花かご》の長男である重野大地君で、ちょうど花を届けに来てくれたところだった。
「こんにちはー。お花のお届けに上がりました!」
お店のドアベルをカランカランと鳴らしながら、大地君はお店に入った。ましろとアリス君もそれに続く。
大地君は大柄で、柔らかい性格、そして柔らかそうなおなかをした27歳だ。
「うわぁ、今週もきれいなお花だね!」
「だろう? これは、サルビアの花なんだ。花言葉は、『家族愛』。いいだろう?」
大地君は、鮮やかな赤色の切り花を持っていた。とてもきれいでかわいらしい花だ。
「すてきですね。すぐに飾らせてもらいます」
りんごおじさんは、うれしそうに花を受け取り、奥に花びんを探しに行こうとした。けれど、それを大地君が引き止めた。
「まっ、待ってください。実は、相談があるんです!」
なんだろう? と、ましろとりんごおじさんは思わず顔を見合わせた。
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