【コミカライズ】堕ちた聖騎士さまに贈るスペシャリテ〜恋した人はご先祖さまの婚約者でした〜
コミカライズカウントダウンSS(配信開始!):ルブランの秘密の恋
「ノエル。そろそろお前にも話しておこう。【堕ちた聖騎士】の話を」
眠る前。いつものように、物語の本をせがむノエルに、父マルク・ルブランは言った。
5歳の愛娘に向ける視線は温かく、けれど真剣さを帯びている。
ノエルが「絵本がウソの話だってことなら、しってるよ?」と首を傾げると、マルクは静かに「家族だけの秘密の話なんだ」と居住まいを改める。
ノエルが読んだ絵本とは、300年前に起こった【魔王大戦】を子ども向けに描いたものだ。
全てを破壊するために生まれた魔王が、世界を滅ぼそうとした。
それに抗うべく立ち上がったのが、勇者と仲間たち。
激しい戦いの末に、勇者は退魔の神剣で魔王を倒す。
だが、華々しい勝利で物語は終わらない。
仲間の聖騎士が勇者の功績を妬み、裏切りを犯したのだ。
しかし、勇者は悪――【堕ちた聖騎士】には屈しない。
勇者は【堕ちた聖騎士】に打ち勝ち、世界には真の平和が訪れた――。
その絵本は、国の子どもならば誰もが一度は読んだことがあるものだった。そこにあるのは気持ちのいい勧善懲悪であり、勇者を永遠の英雄として称えている。
けれど、実際の歴史は違うということをノエルは知っていた。
絵本の内容は、世界中の人々が抱く願望でしかなく、史実の勇者は【堕ちた聖騎士】に殺されてしまったのだ。
「となりのおばさんが言ってたよ。勇者は聖騎士に負けちゃったって。怒った王様が、聖騎士を闇の世界にとじこめたって。悪いことをしたから、当然だよね」
「そうだなぁ……」
マルクは、ベッドの上で退屈そうに横たわるノエルに毛布をかけてやりながら、「だが」と言葉を紡ぐ。
「本当に聖騎士が悪い奴だったかは、分からない」
「なんでー?」
「父さんやノエルのご先祖さまが、その聖騎士を信じていたからだ」
「ご先祖さま?」
「父さんたちと血は繋がっていないけれど、ルブラン家の大切なご先祖さまだよ」
マルクは、先祖の名を「アンジュ・ルブラン」だと言った。
アンジュはベーカリーカフェルブランの初代店主であり、一族に伝わる数々のレシピを作った女性だ。
そして彼女は、聖騎士と結婚の約束をしていた。
聖騎士のことを心の底から愛し、彼が処刑された後も生涯未婚のままでいた。そして、養子を育てながら、店で彼の帰りを待ち続けたと――。
「えぇ~っ! ほんと? そんなのしらなかったよ」
「聖騎士が罪を犯してからは、伏せられていたんだ。聖騎士と関わりのある者までも、人々から恨まれてしまったからね」
「じゃあ、秘密の恋だったんだ」
ノエルは「なるほどねぇ」と頷きながら、眠たい目をこする。
ルブラン家に伝わるご先祖さまの秘密の恋。相手は大罪人で、もう二度と会うことも叶わない。
それは、きっと寂しくて悲しい恋だったのではないかと、5歳のノエルは子どもながらに思った。
「ご先祖さまが信じてたんなら、わたしも信じてあげようかな。その人のこと」
うとうとと眠りに落ちそうになるノエルは、父の手を握って小さく微笑む。
「ねぇ。【堕ちた聖騎士】さまの名前って、なんていうの?」
「あぁ。彼の名前は――」
***
「ランスロット・アルベイト……」
ナイトランド領主サーティスが荒らしていった店内に、16歳になったノエルの声が静かに響く。
見つめる先にいるのは、銀の鎖に囚われているかのような鎧をまとった一人の騎士。
その出会いが、ノエルの秘密の恋の始まりだった――。
眠る前。いつものように、物語の本をせがむノエルに、父マルク・ルブランは言った。
5歳の愛娘に向ける視線は温かく、けれど真剣さを帯びている。
ノエルが「絵本がウソの話だってことなら、しってるよ?」と首を傾げると、マルクは静かに「家族だけの秘密の話なんだ」と居住まいを改める。
ノエルが読んだ絵本とは、300年前に起こった【魔王大戦】を子ども向けに描いたものだ。
全てを破壊するために生まれた魔王が、世界を滅ぼそうとした。
それに抗うべく立ち上がったのが、勇者と仲間たち。
激しい戦いの末に、勇者は退魔の神剣で魔王を倒す。
だが、華々しい勝利で物語は終わらない。
仲間の聖騎士が勇者の功績を妬み、裏切りを犯したのだ。
しかし、勇者は悪――【堕ちた聖騎士】には屈しない。
勇者は【堕ちた聖騎士】に打ち勝ち、世界には真の平和が訪れた――。
その絵本は、国の子どもならば誰もが一度は読んだことがあるものだった。そこにあるのは気持ちのいい勧善懲悪であり、勇者を永遠の英雄として称えている。
けれど、実際の歴史は違うということをノエルは知っていた。
絵本の内容は、世界中の人々が抱く願望でしかなく、史実の勇者は【堕ちた聖騎士】に殺されてしまったのだ。
「となりのおばさんが言ってたよ。勇者は聖騎士に負けちゃったって。怒った王様が、聖騎士を闇の世界にとじこめたって。悪いことをしたから、当然だよね」
「そうだなぁ……」
マルクは、ベッドの上で退屈そうに横たわるノエルに毛布をかけてやりながら、「だが」と言葉を紡ぐ。
「本当に聖騎士が悪い奴だったかは、分からない」
「なんでー?」
「父さんやノエルのご先祖さまが、その聖騎士を信じていたからだ」
「ご先祖さま?」
「父さんたちと血は繋がっていないけれど、ルブラン家の大切なご先祖さまだよ」
マルクは、先祖の名を「アンジュ・ルブラン」だと言った。
アンジュはベーカリーカフェルブランの初代店主であり、一族に伝わる数々のレシピを作った女性だ。
そして彼女は、聖騎士と結婚の約束をしていた。
聖騎士のことを心の底から愛し、彼が処刑された後も生涯未婚のままでいた。そして、養子を育てながら、店で彼の帰りを待ち続けたと――。
「えぇ~っ! ほんと? そんなのしらなかったよ」
「聖騎士が罪を犯してからは、伏せられていたんだ。聖騎士と関わりのある者までも、人々から恨まれてしまったからね」
「じゃあ、秘密の恋だったんだ」
ノエルは「なるほどねぇ」と頷きながら、眠たい目をこする。
ルブラン家に伝わるご先祖さまの秘密の恋。相手は大罪人で、もう二度と会うことも叶わない。
それは、きっと寂しくて悲しい恋だったのではないかと、5歳のノエルは子どもながらに思った。
「ご先祖さまが信じてたんなら、わたしも信じてあげようかな。その人のこと」
うとうとと眠りに落ちそうになるノエルは、父の手を握って小さく微笑む。
「ねぇ。【堕ちた聖騎士】さまの名前って、なんていうの?」
「あぁ。彼の名前は――」
***
「ランスロット・アルベイト……」
ナイトランド領主サーティスが荒らしていった店内に、16歳になったノエルの声が静かに響く。
見つめる先にいるのは、銀の鎖に囚われているかのような鎧をまとった一人の騎士。
その出会いが、ノエルの秘密の恋の始まりだった――。
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