【コミカライズ】私の身体を濡らせたら
10.波乱の忘年会-3
大斗くんが生まれた時も、私とあきらと千尋でお祝いを買いに行った。本当は陸と龍也も一緒だったけれど、店に入って二十分くらいしても全く決まる様子がないとわかり、近くのカフェに異動して行った。
「先週からつわり酷くて、実家に帰ってるんだよ。その方がゆっくりできると思って。だいぶ落ち着いたから今日も来たがったんだけど、さっき迎えに行ったら、また寝込んでてさ」
「大斗くんの時も、キツそうだったもんね?」
「ああ」
「大斗くんは? さなえと一緒?」
「大斗が一緒じゃさなえが休めないから残したんだけど、二日が限界だった……」
「大斗くん、さなえにべったりだって言ってたもんね?」
「そうなんだよ。早くも赤ちゃん返りなのか、ますますさなえから離れなくなっちまって」
なんだかんだと言いながらも、大和は幸せそうで、嬉しくなった。
いいなぁ。
フッと、私は自分が赤ちゃんを抱いている姿を想像した。
隣にいるのは――。
「今日はその報告もしたくて、来たんだよ」
「マジかぁ。じゃ、タイミング悪かったかな」と、陸。
「何が?」
「いや。俺からも報告があってさ」
全員が陸に注目する。
陸もいよいよ待望の赤ちゃんが!? と、誰もが思ったはずだ。
デキ婚したのに流産で、それから二年が過ぎた。
言葉にはしなくても、みんな気にかけていたはずだ。
「離婚、した」
り……こん……?
「――――っ!?」
あっけらかんとした陸の告白に、耳を疑った。
「で、イギリスに行く」
「……はぁ!?」
「イギリス!?」
「その前に、離婚て!」
みんなの声が、すごく遠くに聞こえる。フィルターがかかったように、上手く聞き取れない。
陸が……イギリスへ……。
慌てるみんなをよそに、陸は頬杖をついてビールを飲む。
「ずっと、家庭内別居状態だったんだよ。離婚するにも、仕事が忙しくてろくに話し合う時間もなかったってだけで二年もずるずるしちまったけど、俺のイギリス行きが決まって、記入済みの離婚届をテーブルに置いておいたら、いつの間にか記入してあった」
「そんな……」と、私は思わず漏らした。
「そんなもんだった、ってことだ」
「……」
誰も、何も言えなかった。
突然の報告に、私は信じられないという思いが強く、急激に心拍数が上がるのを感じた。
「それは、飲みたくもなるよね」と、千尋。
「よし! 飲もう!」
千尋が呼出しボタンを押して、ウェイターを呼んで、ビールのお代わりを注文した。
私は大きく息を吸い込んで、陸に聞いた。
「いつ、行くの?」
声が、震える。
「イギリス、いつ行くの?」
涙が、出そう。
「すぐってわけじゃない。来年の秋くらいになると思う」
陸の心配そうな眼差しに、ハッとした。
私が泣いたりしちゃ、ダメだ。
「そっか……。きっと、すごい、ことなんだよね?」
「ああイギリスでの勤務経験があれば、何年かして日本に戻った時には総支配人に昇格できる」
あきらにハンカチを差し出され、私は急いで涙を拭った。
「おめでとう、陸」
ぎこちなかったかもしれないが、精一杯の笑顔で言った。
「サンキュ、麻衣」
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