【コミカライズ】私の身体を濡らせたら
8.彼女の嫉妬と元カレとの再会-5
「ねぇ」と、俺は彼女の猫の脇を持って、抱き上げた。
正面から、じっと見つめる。
「これ、なんて種類の猫?」
「え?」
猫はタオル地で柔らかく、眠たいのか目を細めていて、目尻は垂れている。猫は丸くなって眠ると言うが、この猫は手も、足もだらしなくぶらぶらしている。いつもソファにいるからぬいぐるみだと思ったが、どうやら抱き枕らしい。
「どしたの?」と、麻衣さんがコーヒーのカップを二つ、テーブルに置いた。
どちらも白いマグカップだが、一つは黒のストライプ、一つは赤のストライプで、付き合い始めて一か月ほどで麻衣さんが用意してくれたお揃い。
真綾と再会して熱を出した日から、俺は二日と空けずに麻衣さんの家に来ている。
仕事帰りに顔を見るだけの時もあれば、一緒に飯を食う時もある。週末は泊まりもする。
麻衣さんと付き合って三か月が経とうとしていた。
「よーく見ると、あんまり可愛くないよね」
「気づいたか」と言って、麻衣さんがフフンッと得意気に笑う。
「そうなの。この猫、見れば見るほど可愛いと思えなくなる、ブサかわ猫なの」
「なに、それ」
「真っ白でふわふわで、柔らかくて幸せそうな寝顔に一目惚れしたんだけど、よく見ると目が少し開いてるし、目の垂れ方が幸せそうって言うよりいやらしい感じだし、買った時はふわふわだったんだけど、しばらく抱いてたらボリュームがなくなってきて痩せてきちゃったし」
「それ、『かわ』の要素なくない? ブサイクってより、ザンネンな猫でしょ」
「ブサかわなの!」と、麻衣さんは俺から猫を奪って抱き締めた。
彼女なりのこだわりらしい。
「ま、顔についてはともかく、痩せちゃったのは麻衣さんのせいだよね」
「なんで!?」
「麻衣さんの胸に挟まれて押し潰されたら、かなりの圧だから」
「ひどっ!」
麻衣さんが口を尖らせて、俺を睨む。全く怖くないどころか、可愛すぎてその唇に吸いつきたくなる。
俺は無意識にゴクッと喉を鳴らして唾を飲んだ。
「胸は柔らかくて気持ちいいんだけどねぇ。なんせ、力が……」と、昂る欲望を誤魔化すようにおどけて笑う。
「そういうこと、言うんだ」
煽情的な唇はそのままに、彼女はフンッと鼻息を荒くして顔を背けた。
「今日は一緒に寝ない! 私の胸で窒息したら大変でしょ?」
亀による鶴の一声で、俺は彼女にずずいっと詰め寄り、訴えた。
「いや、それはそれで本望だから!」
「変態!」
麻衣さんは詰め寄る俺の顔に猫を押し付け、防御する。俺は猫をポイッとソファに放った。それから、彼女の胸に顔を埋めるように抱き着き、両手で腰を抱く。
「とにかく、やだ! 一緒に寝る!!」
「ちょ――! わかったから離れて!」
最近、気づいた。
麻衣さんは母性の塊のような人で、包容力が半端ない。要するに、甘えられることにめっぽう弱い。男としては若干、いや、かなり情けないとわかっているが、年下の強みを使わない手はない。
麻衣さんの柔らかくて温かい胸に顔を擦りつけ、首を振る。
「別々の布団なんて、寒すぎて凍死する……」
「大袈裟だし! てか、ホント離して」
「やだ!」
俺、人格崩壊してね……?
麻衣さんの弱みにつけ入るように年下の甘えたな男を演じてみると、これがなかなかツボにハマり、仕方ないなと彼女が許してくれたり抱き締めてくれたりするのが嬉しくて堪らなくて、今ではこれが俺の本性なのではと思う。
それにしても、柔らかくて気持ちいいな……。
服の上から彼女の胸にキスをする。まさに至福の一瞬だ。
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