【コミカライズ】私の身体を濡らせたら
7.彼の嫉妬と元カノとの再会-5
子供のいない所長は、ゆくゆくは不破さんに事務所を継いでもらいたいと思ているらしい。と、以前、小野寺さんが話してくれた。
跡継ぎかはともかく、不破さんが所長の甥であることは、鶴本くんも知っている。
「どんな、って?」
「……」
もしかして、と思った。
「鶴本くん?」
「…………」
もしかしなくても、そうみたいだ。
私は濡れた手をタオルで拭き、鶴本くんの背後に座った。
鶴本くんは、私を見ようとしない。
「不破さんて、身長が百八十五センチもあるんだって。私は見上げてると首が痛くなっちゃうんだ。足が長くて大股だから、歩くのも早くって、私は追いつけないし。社用車が軽だから、いっつも窮屈そうだし。あ、不破さんて学生時代はバレーボールをしてたんだって。国体にも出場したことがあるって。鶴本くんは何かスポーツしてた?」
「サッカー……」と、鶴本くんの低い声が聞こえた。
「へぇ! っぽいね。今はもうやってないの?」
「たまに友達とフットサルしてる」
「そうなんだ。私は中学までソフトボールやってたんだけどね、足が遅いから、いっつも代走に交代で、ホームベースを踏んだことがあんまりなかったんだよねー」
背を向け続ける彼の背に、私は背中を合わせてもたれかかった。私を支えようと、彼の背に力がこもる。
「懐かしーなぁ。私、サードを守ってたんだけどね? 今よりももっと太ってたし、必死になると顔が怖くなるみたいで、二塁ランナーに怯えられてたんだよね」
「麻衣さんが?」
「うん。走塁妨害で、よく注意されたし。相手チームから、『デブスが邪魔でベースが見えない』って舌打ちされたりもしたな」
「はっ!?」
思いがけないところで、鶴本くんが振り返った。背中を預けていた私は、反動でソファに突っ伏した。
「わっ!」
「え!? あ、ごめん」
「もう……」
私がぶつけた鼻の頭を押さえながら体を起こすと、真顔の鶴本くんがずいっと顔を寄せて来た。
「麻衣さんはデブスじゃないよ」
「……ふふっ――」
無意識に、口元が綻んだ。
「昔の話だよ」
「そうだとしてもっ!」
「……ありがと」
「麻衣さん」
鶴本くんがフワッと私を包み込んだ。
「ごめん」
「なにが?」
鶴本くんの腕に力がこもり、私はグイッと抱き寄せられた。
「不破さんに、嫉妬した」
「……どうして?」
「不破さんと麻衣さんはいいコンビだ、って聞いて……」
事務所で、からかわれたのだろう。
私がしばらく南事務所に行くとわかって、みんな口々に『浮気しちゃダメよ』なんて言っていたし。
私は彼の背中に腕を回した。
「変なの」
「何が?」
「鶴本くんが嫉妬するとか」
「……どうして」
顔を見なくても、ムッとしたのがわかった。
「だって――」
私は彼の腕の中で俯いた。
「誰が見たって不自然じゃない。鶴本くんみたいな若いイケメンが、私みたいな――」
「そういうこと言うな!」
グイッと両手で肩を掴まれ、身体が引き離された。三十センチほどの距離で私を見る鶴本くんは、ムッとしたのを通り越して、怒っていた。
「他の奴なんか関係ない! 俺は……、俺が! 麻衣さんを好きなんだから!」
こんな風に愛されて、揺るがない女がいるだろうか。
「ありがとう」と、私は微笑んだ。
その夜、鶴本くんは私の部屋に泊まった。
狭いベッドで抱き合って、眠った。
仕事の話をしていると、鶴本くんが私の身体を撫で始め、ふっと手を離して天気の話を始めた。二日前の強風で、事務所近くのポプラの木の枝が折れて歩道を塞いだ、とか。それから、今度は服の上から私の身体を唇でなぞる。また離れては、公開されたばかりの映画の話を始める。
何がしたいのかわからなかった。わからなかったけれど、触れられるのは気持ち良かったし、やめられると少しがっかりした。
それをわかってか、鶴本くんは心地良い眠りに誘われて目を閉じた私に言った。
「早くさせてね」
太腿にカレを感じて、脚の間がむず痒くなった。
跡継ぎかはともかく、不破さんが所長の甥であることは、鶴本くんも知っている。
「どんな、って?」
「……」
もしかして、と思った。
「鶴本くん?」
「…………」
もしかしなくても、そうみたいだ。
私は濡れた手をタオルで拭き、鶴本くんの背後に座った。
鶴本くんは、私を見ようとしない。
「不破さんて、身長が百八十五センチもあるんだって。私は見上げてると首が痛くなっちゃうんだ。足が長くて大股だから、歩くのも早くって、私は追いつけないし。社用車が軽だから、いっつも窮屈そうだし。あ、不破さんて学生時代はバレーボールをしてたんだって。国体にも出場したことがあるって。鶴本くんは何かスポーツしてた?」
「サッカー……」と、鶴本くんの低い声が聞こえた。
「へぇ! っぽいね。今はもうやってないの?」
「たまに友達とフットサルしてる」
「そうなんだ。私は中学までソフトボールやってたんだけどね、足が遅いから、いっつも代走に交代で、ホームベースを踏んだことがあんまりなかったんだよねー」
背を向け続ける彼の背に、私は背中を合わせてもたれかかった。私を支えようと、彼の背に力がこもる。
「懐かしーなぁ。私、サードを守ってたんだけどね? 今よりももっと太ってたし、必死になると顔が怖くなるみたいで、二塁ランナーに怯えられてたんだよね」
「麻衣さんが?」
「うん。走塁妨害で、よく注意されたし。相手チームから、『デブスが邪魔でベースが見えない』って舌打ちされたりもしたな」
「はっ!?」
思いがけないところで、鶴本くんが振り返った。背中を預けていた私は、反動でソファに突っ伏した。
「わっ!」
「え!? あ、ごめん」
「もう……」
私がぶつけた鼻の頭を押さえながら体を起こすと、真顔の鶴本くんがずいっと顔を寄せて来た。
「麻衣さんはデブスじゃないよ」
「……ふふっ――」
無意識に、口元が綻んだ。
「昔の話だよ」
「そうだとしてもっ!」
「……ありがと」
「麻衣さん」
鶴本くんがフワッと私を包み込んだ。
「ごめん」
「なにが?」
鶴本くんの腕に力がこもり、私はグイッと抱き寄せられた。
「不破さんに、嫉妬した」
「……どうして?」
「不破さんと麻衣さんはいいコンビだ、って聞いて……」
事務所で、からかわれたのだろう。
私がしばらく南事務所に行くとわかって、みんな口々に『浮気しちゃダメよ』なんて言っていたし。
私は彼の背中に腕を回した。
「変なの」
「何が?」
「鶴本くんが嫉妬するとか」
「……どうして」
顔を見なくても、ムッとしたのがわかった。
「だって――」
私は彼の腕の中で俯いた。
「誰が見たって不自然じゃない。鶴本くんみたいな若いイケメンが、私みたいな――」
「そういうこと言うな!」
グイッと両手で肩を掴まれ、身体が引き離された。三十センチほどの距離で私を見る鶴本くんは、ムッとしたのを通り越して、怒っていた。
「他の奴なんか関係ない! 俺は……、俺が! 麻衣さんを好きなんだから!」
こんな風に愛されて、揺るがない女がいるだろうか。
「ありがとう」と、私は微笑んだ。
その夜、鶴本くんは私の部屋に泊まった。
狭いベッドで抱き合って、眠った。
仕事の話をしていると、鶴本くんが私の身体を撫で始め、ふっと手を離して天気の話を始めた。二日前の強風で、事務所近くのポプラの木の枝が折れて歩道を塞いだ、とか。それから、今度は服の上から私の身体を唇でなぞる。また離れては、公開されたばかりの映画の話を始める。
何がしたいのかわからなかった。わからなかったけれど、触れられるのは気持ち良かったし、やめられると少しがっかりした。
それをわかってか、鶴本くんは心地良い眠りに誘われて目を閉じた私に言った。
「早くさせてね」
太腿にカレを感じて、脚の間がむず痒くなった。
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