【コミカライズ】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

6.面倒な女心、複雑な男心-6


「週末、暇?」

「え? あ、うん。買い物に行こうと思ってただけで――」

「飯、食わして?」

 お金のことで気を悪くしたわけじゃなさそうで、ホッとした。

「うん! 何が食べたい?」

「唐揚げとか……ハンバーグ? あ! グラタンとかも好き」

「え? どれ? あ! 〇山に美味しいハンバーグ屋さんがあるよ。ちょっと遠いけど――」

「はっ!?」

 鶴本くんが足を止め、と言うか、突然勢いよく振り返ったから、私は急には止まれずに、鶴本くんの腕に体当たりしてしまった。

 ひっくり返るほどではなかったけれど、身体が仰け反り、鶴本くんが鞄を持つ手で私の腰を支えてくれた。

「なに、急に――」

「違うから」

「はい?」

「手料理! 麻衣さんの手料理が食いたい」

「……ああ! いいけど、別にすごく料理上手ってわけじゃないよ? 割と、フツーな――」

「はあ?」

 鶴本くんの拍子抜けした声。

 それから、深いため息。

「何で、そんなに反応軽いの?」

「へ?」

「彼女の手料理とか、俺、初めてだから、ねだっていいのかめっちゃ考えたんだけど! 麻衣さんはそんな軽い感じで、男に手料理食わしちゃうの?」



 ……。



「俺、彼女の手料理とか食ったことないから、めっちゃ憧れてて。麻衣さんが食べてる弁当とか、めっちゃ美味そうだなって思ってたし。けど、そういうのねだるのってウザかったりしないのかなとか、めっちゃ考えてたんだけど!」

 鶴本くんがそこまで興奮する理由に共感は出来ないけれど、とにかく、色んなことが『めっちゃ』なのはわかった。

 アルコールのせいもあって、鶴本くんの口から勢いよく飛び出した、いくつもの小さな雲がふわふわと空に昇っていく。

「つーか! 部屋で二人きりとかも避けてたのに、そんなに簡単にOKしちゃうわけ? がっついてると思われたくなくて、めっちゃ我慢してたんだけど!」



 また、『めっちゃ』って言った。



 怒るのがわかっているから、鶴本くんには言えないけれど、可愛いな、と思った。

 部屋のこともだけれど、鶴本くんは付き合い始めた日以来、キスもしてもない。

 今の言い方だと、それも『めっちゃ』我慢しているのかもしれない。

 方向性が正しいかは別として、大事にされているのは『めっちゃ』伝わった。

「で、何がいい?」

「え?」

「週末は、お家デートしよう」

 明日は定時で上がって部屋の掃除をしなきゃな、と思った。

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