【コミカライズ】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

5.濡れない身体-5

 さすがに顔を見ては言えなかった。

 私は、正座した太腿の上で握り締めた自分の拳を見ていた。

「……他には?」

「他……には……、……鶴本くんも……H出来たら飽きるんじゃないか……とか」

「言いましたよね? 麻衣さんの不感症が治ったら結婚したい、って」

「そんなのっ――」

 顔を上げて、鶴本くんの顔を見たら、その先が言えなくなった。

 真剣で、ほんの少し寂し気。

「信じられませんか?」

『信じられない』と言うつもりだった。



 言うつもりだったのに……。



「わからない……」

「……そうですか」

 明らかに、落胆の声。



 最低……。



 散々、気を持たせるようなことを言って、して、結局信じられないなんて、最低だ。

「わかりました」

 今朝の話全部なかったことにしたい、と言われても仕方がない。



 そうしたら、私は年上らしく、何事もなかったかのように――。



「今日は普通にデートしよう」

「え――?」

「麻衣さん家でのデートはまた今度にして、今日は健全に! 映画を見るとか、ブラブラ買い物するとかしよう」

 予想していた言葉とは違い過ぎていて、驚いた。

「言っとくけど! さっきのは麻衣さんだって悪いんですからね! 俺は急ぐ気なかったのに、あんなことされたら……――」

 そうだ。

 そもそも、鶴本くんの感じてる顔可愛さに手を出したのは、私。



 私、めちゃくちゃ悪い女じゃない――!?



「ごめん……なさい」

 もう、全部お酒のせいにしたい。

 昨夜からこの瞬間までの事、全部。



 ホント、もうお酒は自重する!



「不感症は一先ず置いておいて!」

 そう言って、鶴本くんが私の手を握った。

「お試しでいいんで、俺を彼氏にしてください」

 この期に及んで足掻くのは、大人気ないだけ。

 私は、覚悟を決めた。

 そして、その覚悟を行動で示した。

 身を乗り出し、彼の唇に自分の唇を重ねた。

 そっと。

「よろしくお願いします」

 もう、引き返せない。

 亀谷麻衣、三十二歳。

 二十五歳の恋人が出来ました。

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