【コミカライズ】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

5.濡れない身体-4

「……今度……ね?」と、自分でも苦笑いしてしまうような、当たり障りのない返事をした。

「や、今日」

「――今日!? ダメ!」

「じゃ、洗わない」

「だって! その、今日は――」

「恋人になったんだから、いいでしょ」

「恋……人……!?」

 心の中で呟いたつもりが、声に出ていた。

 鶴本くんが、目を丸くして私を見ていた。そして、シーツごと頭を抱えた。

「ちょっと、待った」

 はぁ、と深いため息をつき、彼が顔を上げた。

「今日からの一年、どういう関係だと思ってたんですか」

「どう……って……」

 鶴本くんが丸めたシーツをベッドに置き、座った。正座して。

「麻衣さんもそこに座って」と言って、正面を指さす。

 私は言われた通り、座った。正座して。

「麻衣さん」

「はい」

 なぜか、私が鶴本くんに説教でもされるような図。

「俺はあなたが好きです。結婚したいって思うくらい。それは伝わってますよね?」

「……はい」

「麻衣さんは、とりあえず俺を嫌いではないんですよね?」

「はい」

 私は叱られているかのように、俯きがちに返事をした。

「麻衣さん。俺は不感症が治ることがゴールだなんて思ってません」

「え……?」と、私は思わず顔を上げた。

 鶴本くんがもう一度、ため息をつく。

「俺が思うに、麻衣さんの不感症は精神的なものが大きいと思います。実際、好きな男に抱かれた時は濡れたんでしょう? さっきも、途中まではイイ感じに濡れてたんですよ?」

「そう……なの?」

「一年もかからずに治せるかもって、期待しました」

「そう……なんだ?」

「けど! 急に全く反応しなくなりました。あの時、何考えてました?」

「え?」



 何を考えていた……?



 確かに、途中までは気持ち良かった。

 声を我慢するのが辛くなるほど。



 けど、恥ずかしいことを言われて――。



「大事なことなんで、ちゃんと教えてください」

 内容はとんでもない会話だけれど、鶴本くんの表情は真剣。

 ふと、テーブルの上のシリアルに牛乳をかける前で良かった、なんてどうでもいいことを考えた。牛乳をかけていたら、今頃ふやけてる。

 私は歯ごたえがある方が好きだ。

「麻衣さん!」

 私がよそ見していることに気づいたのか、注意を引き戻された。

 仕事中に注意するのは私の方なのに。

「途中までは普通に気持ち良かったですよね?」

「……うん」

「で、何を考えてました?」

「……」



 え?

 言うの!?

『鶴本くんって実は変態かも、って思った』って!?



「大事なことなんですよ」

 これは、言うまで引き下がらなそうだと思った。

「……鶴本くん、余裕だなぁ……って思って」

「は?」

「だって!」

 もう、やけくそだ。



 言えって言ったのは、鶴本くんなんだから!



「恥ずかしいこと言うし、なんか……う、上手いし……? 経験多いのかなとか――、思って……」

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