【コミカライズ】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

4.秘密の関係-6

 鶴本くんが顔を上げた。

 こんな状況じゃなければ、熱があると思うほど顔が赤い。

 可愛いな、と思った。

「だって、結婚したらなるべく早く子供欲しいし。私が休んでる間、生活に困るのはねぇ……」

 鶴本くんを傷つけたいわけじゃない。

「それはっ――、仕事も頑張ります」

 出来るなら、気持ちに応えてあげたい。

「期限は?」

「え?」

「私の不感症を治すための期限。その時が過ぎても私の不感症が治らなければ、この話はナシ」

 けれど、正直、現実味がない。

 不感症が治るのも、鶴本くんと結婚することも。

 だから、かもしれない。

 頑なに拒絶する必要はない気がした。

「その時は、諦めて」

 どうせ、私の不感症は治らない。

「約束して」

 期限が切れる前に、鶴本くんが嫌になるかもしれない。

 こんな、面倒臭い女。

「期限が切れたら、全部なかったことにして」

 鶴本くんの喉仏が動いた。唾を飲んだのだろう。

 私の言葉に顔の赤みが引いていく。

「わかり……ました」

「期限は?」

 鶴本くんの眼球が下に動き、右に動き、それから私を映した。

「一年」

「長くない?」

 どうせ一年ももたないだろうけれど。

 鶴本くんのような若くて健康な男が、一年もの禁欲に耐えられるはずがない。

 相手がいないのと、目の前にいるのにデキないのとでは、全然違う。

「そんなに、俺が耐えられないと思ってるでしょ」

「え?」

「不感症って、具体的にはどうなんですか?」

「どう……って……」

「触られても気持ち良くない、とか? れたら痛い、とか?」

「……まぁ、そんな感じ」と言って、私は彼から視線を逸らした。

 改めて聞かれると、恥ずかしい。

 ムニュッと両手で頬を挟まれて、私の視界に再び鶴本くんが映る。それも、近い。

「大事なことだから、ちゃんと答えてください」

「ひゃい」

 頬を挟まれたままで、変な返事をしてしまった。

「このままチューしていい?」

「ひぇ?」

 鶴本くんがにっこり笑う。

「めっちゃ、ぶさカワ」

 私は彼の手から顔を抜き、自分の手で頬を擦った。

「失礼な」

「――で?」

「なに?」

「具体的に、どうなったら治ったことになるんですか? 不感症」



 どうなったら……。



「挿れても痛くなかったら? イケたら?」

「まぁ……、うん。そんな感じ」

 今更、恥ずかしくなる。

「ちゃんと言ってくださいよ」

 何が悲しくて、土曜の朝、後輩の部屋で、自分のセックス事情を話さなきゃいけない。

「だから、そんな感じで――」

「確かめて、いいですか?」

「何を?」

「本当に不感症か」

「へ!?」

「いきなり挿れませんから」

 ワルそうな笑顔で、鶴本くんが私の耳朶を噛む。

「ちょ――、鶴本くん!」

「正確に現状を把握できていないと、解決できないでしょう?」

「だからって――」

 鶴本くんの左手が私の腰を抱いて離さない。右手は首筋をなぞる。

 ゾクゾクする。

「鶴本くん、ストップ!」

 押し退けようとしても、ビクともしない。

 鶴本くんの右手が鎖骨をなぞり、胸へと下りていく。

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