【コミカライズ】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

3.コンビ解散-7

「落ち着こう!」

 麻衣さんが言った。

「酔ってるよね、鶴本くん」

「酔ってませんよ」

「いや! 酔ってるから!」

「酔ってません! 本気で麻衣さんのこと――」

「酔ってるから!」

 ドンッと力いっぱい押し退けられて、俺はベッドから転げ落ちた。

「――って!」

 思いっきり、ケツを打った。

「ごめんっ! 大丈夫!?」

 ベッドの上から身を乗り出して俺を見下ろす麻衣さんの、少し乱れた髪や、ほんのり赤い頬、一番上のボタンが外れたシャツから覗く白い肌を見たら、自分でもびっくりするほど過剰に身体が反応した。

 俺は麻衣さんの手を掴んで引き寄せた。

「ひゃ――」

 麻衣さんはズルッと滑り落ちるように、俺の上に降って来た。

 酔っているのかもしれない。

 ずっと触れられなかった麻衣さんに触れて、タガが外れた。

 麻衣さんとのコンビが解消されたら、もういつも一緒にはいられなくなる。

 いやらしい目で顔や胸を見る男から、守ってあげられなくなる。

 そんな焦りや不安と、少しのアルコールが混じり合って、主に股間がキャパオーバーした。

「好きだ」

 ベッドに押し付けるように抱き締めた。

「好きだ」

 耳元で囁くと、麻衣さんの鼓動が強くなり、速度を上げた。俺の鼓動だったのかもしれない。

「鶴本くん、私の年知ってる!? もう三十二だよ!? おばさんだよ!?」

「七歳くらい、年が離れてるうちに入りませんよ」

「いや、入るよ! 私が四十になっても、鶴本くんは三十二? 三!? 絶対、嫌になるって!」

 一緒に仕事をしていて、こんなに慌てふためく麻衣さんを見たことはない。

 入所当初、俺がとんでもないミスをして顧客を激怒させた時も、冷静だった。

 面白くなってきた。

 俺は麻衣さんの耳朶にキスをした。柔らかい。そのまま、銜える。

「ひえっ!」

「あれ、耳、嫌いですか?」

「嫌いとか好きとか――じゃなくて!」

「年以外に、俺がダメな理由、ありますか?」

「は?」

「年齢に関して言えば、同じ年でも男が年上でも、ダメになる時はダメになるし、理由としては弱いですよ」

 自分でもびっくりするくらい、強引な正論が口をついた。

 酒の力は、本当に恐ろしい。

 だが、俺よりそれを痛感したのは麻衣さんだろう。

「――で? 他に理由は?」

 もう怖いものなし状態の俺は、勢いに任せて麻衣さんの唇めがけて顔を近づけた。ほんの少し、首を傾げながら目を閉じる。

 けれど、俺の唇は彼女の唇には触れられなかった。

「私! ――不感症なの!!」

 麻衣さんの両手が俺の口に押し付けられた。鼻まで覆われて、息が出来ない。

 けれど、それに気づくまで、ゆうに二十秒はかかった。

 それくらい、度肝を抜かれた。

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