【コミカライズ】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

3.コンビ解散-4

「鶴本くんに麻衣ちゃんは、十年早い! 男を磨いて出直してこい」と言って、明子さんが一気飲みさながらにジョッキを持ち上げる。

「麻衣ちゃん、結婚てそんなにいいもんじゃないよ!?」

 明子さんはバツイチ。

 俺が就職する前には離婚していて、高校生の息子と二人暮らし。離婚の原因は知らないけれど、結婚はもう懲り懲りらしい。

「私も婚活、しようかなぁ……」

 仁美さんがお通しの枝豆を指で弾きながら言った。

「麻衣ちゃん、一緒に登録しよっか」

「え!?」

「ええっ!?」

 麻衣さん以上に反応したのは、小野寺さん。

 小野寺さんもバツイチで、娘が二人いると聞いた。副所長で給料もいいのに、養育費を渡しているから楽じゃないと、いつかの飲み会で話していた。

「そんなに驚くことですか? 私だって、まだ諦めてませんよ? 結婚」

 仁美さんの挑戦的な物言いに、驚いた。

 気まずそうに肩をすくめる小野寺さん。

「トイレ、行ってきます!」と、仁美さんが投げやりに言い残して立ち上がった。

 今の会話のどこに、苛立つ要素があったかがわからない。

 仁美さんを心配そうに見つめる麻衣さんと、目が合った。明子さんは麻衣さんの腕に自分の腕を絡めたまま。

「僕もトイレに……」

 小野寺さんが徐に立ち上がり、けれどそそくさと部屋を出て行った。

「鶴本くんは知らなかった?」

 所長が僅かに残ったラーメンサラダの皿を差し出し、俺は受け取った。

「付き合ってるんだよ、あの二人」

「えっ!?」



 マジで?



 全く気が付かなかった。

 別に、意外な組み合わせというわけでもないが、意外だった。

「もう、三年になるかな」

「知りませんでした……」

「二人とも、事務所内では仕事以外、話もしないから」と言って、麻衣さんがザンギを口に入れた。

「けど、隠してるわけでもないんだよ」

「はぁ」

 俺はラーメンサラダをすすった。最後になると、ゴマダレがよく絡んでいて美味い。

「仁美さん、結婚したいんですね」

「子供、欲しいんだって」

 酔った風に見えた明子さんが、麻衣さんの腕を離してジョッキを持った。

「そうか……」

 俺はボタンを押して店員を呼んだ。

「小野さん、ツラいだろうな」と言って、所長がジョッキを空にした。

 所長と小野寺さんは所長が独立する前の職場からの付き合い。所長だけが小野寺さんを『小野さん』と呼ぶ。

「小野寺さんは子供、欲しくないんですか?」と、明子さんが聞いた。

「どうかな。ただ、年齢的には勇気がいるだろうね。孫ほど年の離れた子供を育てていくのは」

「娘さんておいくつなんですか?」

 俺は空の皿やジョッキを扉の横に並べながら聞いた。

 小野寺さんと仁美さんは、なかなか戻って来ない。

「下の娘さんが来年、大学卒業だよ。それだけ年の離れた兄弟が出来るとなると、娘さんたちの反応も心配だろうね」

 また元気な声がして、扉の向こうから若者が現れた。俺は生を四つと、卵雑炊を注文した。

 所長が「あ、僕も」と言った。

 麻衣さんはスクリュードライバーを注文した。

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