【コミカライズ】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

3.コンビ解散-2

 麻衣さんの隣は居心地が良くて、楽しい。

 けれど、いつまでもこのままではいられない。

 最初は、所内で夫婦コンビみたいに弄られるのに、乗っかっていただけだった。ワイワイ楽しいのは好きだし、麻衣さんがムキになって怒るのも面白かった。

 彼女が七歳も年上だと聞いた時には、本当にびっくりした。

 幼く可愛い見た目に反して、性格ははっきり、きっぱりしている。

 少し潔癖気味で、他人の視線に過剰反応し、肩がぶつかるだけで青ざめる。

 確かに、背が低くてぽっちゃりしていて、胸が大きくて童顔なんて、好きな男は多いだろうけれど、そうは言ってもアラサーなんだし、自意識過剰なのではと思っていた。

 そうではないとわかるのは、割とすぐの事だったが。

 視察に赴いた先での、男たちの舐め回すような視線に気づいた時にはぞっとした。電車では正面に座った男が息を荒くしていた。駅ではすれ違いざまに身体を触る男までいた。

 麻衣さんは、俺には何も言わなかった。

 けれど、残業帰りに麻衣さんがバッグの中の防犯ブザーと催涙スプレーをジャケットのポケットに入れるのを見て、じっとしていられなかった。

 最寄り駅が近いからと嘘をつき、家のすぐ近くまで送った。

 所長から、麻衣さんが痴漢に襲われそうになったことがあると聞き、残業した時は必ず送るようにした。

 ボーナスが入ると、実家を出て、麻衣さんの隣駅で一人暮らしを始めた。麻衣さんを送って、そのまま徒歩で帰れるようになった。

 ストーカー行為ではないかと心配にもなったけれど、麻衣さんが防犯ブザーをバッグから出さなくなったから、良しとした。

『本当に麻衣ちゃんが好きなら、慎重にね』

 一年ほど前、明子さんに言われた。

『麻衣ちゃん、前の彼氏に鞭を持たされたことがあるんだって』

『鞭!?』

『そ。自分を好きになる男は変態だけだ、って酔って愚痴ってたことがあるのよ』



 麻衣さんが鞭……。

 

 思わず、想像してしまった。

『だから! 鶴本くんも変態だと思われないように、慎重にね』

 しっかり釘を刺されてしまい、俺は麻衣さんに気持ちを伝えられなくなってしまった。

 知り合って三年。

 俺は本気で麻衣さんを好きになっていた。

 だから、彼女に結婚願望があり、結婚相手を探していると聞いて、行動を起こす時だと思った。

 独り立ちして、バリバリ仕事をして、麻衣さんに男として見てもらいたい。

 かなり短絡的な考えではあるけれど、まずは第一歩。



『頼りない後輩』からの脱却だ!

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