【コミカライズ】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

3.コンビ解散-1

「大丈夫だと思いますよ」

 少し意外だった。

 麻衣さんには褒められることよりも、ダメ出しされることの方が多いから、独り立ちなんてまだ早いと言われると思っていた。

「全ての業務の研修は終えていますし、問題ないです」

『もういらない』と言われたような気がした。

 入所から、オールラウンダーになるように言われていたから、麻衣さんの指示の下ではあっても、他の業務もこなせるように勉強してきた。

 だから、研修期間が長かった。

「とりあえず、麻衣ちゃんの案件をシフトさせて、徐々にみんなの案件にも携わってもらおうか」と、楠所長が言った。

「わかりました」

「じゃあ、鶴亀コンビ解散ですか?」と、明子さんが聞いた。

「お似合いだったのにぃ」

「いつまでも尻に敷かれっぱなしじゃ、鶴本くんの立場がないからね」と、所長。

「それに、麻衣ちゃんが産休に入ったら、鶴本くんが全業務を引き継ぐんだし」

「産休!? 麻衣ちゃん、子供が出来たの?」と、仁美さん。

「出来てません!」と、麻衣さんが全力で否定する。

「そうなる前に、鶴本くんにはピンで動けるようになってもらおうってことだよ」と、小野寺さん。

「もうっ! コンビとかピンとかやめてください!!」

 三年もこのネタで弄られているのに、麻衣さんは慣れない。

「そういうわけだから、まだデキ婚はダメだよ、鶴本くん」

「はい!?」

「一人前になるまでは、麻衣ちゃんを孕ませちゃダメだからね」

「所長! セクハラです」

「うん。今のは一発レッドですよ」と、明子さんが麻衣さんに加勢する。

「聞かなかったことにして?」と、所長がお茶目に首を傾げる。

「可愛く言ってもダメです。ペナルティとして、鶴本くんの研修終了祝いの飲み会は所長の奢りで」

「えっ!? マジで!?」

「マジで」

「明子さんは厳しいなぁ……」

 所内が笑いに包まれ、麻衣さんが俺の隣に戻ってきた。

「麻衣さん、お願いがあるんですけど」

「なに?」

「カフェ・りらっくすを任せてもらえませんか?」

『カフェ・りらっくす』とは、高井さんがオーナーを務めるチェーン店で、札幌市内に五店舗を構えている。今回の依頼は、六店舗目の出店に関してだった。

「明日の打ち合わせと視察を終えれば、書類作成で終了ですし。お願いします」

「でも、高井さんが了承するか――」

「麻衣ちゃんがフォローで入っておけば、問題ないんじゃないかな?」

 所長がディスプレイから顔を覗かせて、言った。

「わかりました」

 所長が、無理のあるウインクを投げてきた。



 両目瞑っちゃってますけど……。



 麻衣さんが高井さんに誘いを受けていることは、所長に報告してあった。麻衣さんが俺のせいで、高井さんと食事に行くことになったことも。

『麻衣ちゃんも大人なんだから』と所長は言ったけれど、俺が子供ガキくさい嫉妬をしなければ、麻衣さんが高井さんとの食事をOKすることはなかったはずだ。

 勝手にしょげている俺に、所長は言った。

『そろそろ麻衣ちゃん離れした方が良さそうだね』

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