【コミカライズ】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

1.鶴亀コンビ-3

『パンツスーツお似合いですね。いつもきちんとした服装をされていて、清潔感があっていいですよね』

 普通ならば、誉め言葉として受け取るだろう。相手は年上のイケメンで、飲食店の経営者。普通ならば、喜んで食事の誘いを受ける。

 けれど、私は普通ではなくて。自意識過剰と言われても、直感でわかってしまう。

『そうやって隠されると、余計にそそられるんだよなぁ。ちゃんとされればされるほど、めちゃくちゃに泣かせたくなるし』

 そう、元カレに言われたことがある。

 その言葉通り、めちゃくちゃに泣かされた。

 凌辱プレイ。

 服を切り裂き、怖がる私を無理やりに犯し、泣いて嫌がる私に興奮してた。

 高井さんの言葉と視線が、その時の元カレとダブって見えた。

 恐らく、高井さんもプレイ好き。

 きっと、普通のセックスでは満足できない。

「考えておいて、って何のことですか?」

 鶴本くんに言われて、ハッとした。

「なに?」

「帰り際に、『さっきのこと、考えておいてください』って言われてたじゃないですか」

「ああ……」

「食事にでも、誘われました?」

「……社交辞令でしょ」

 そうであってほしい。

 仕事を口実にでもされたら、上手く断れる自信がない。

「行きたいですか?」

「え?」

「高井さんと食事に行きたいですか?」

 行きたいわけがない。

 仕事の相手と親密になるつもりはないし、しかもまともな関係を築けるとは思えない。

 けれど、行きたくない理由を鶴本くんに話すつもりもない。

「本気で誘われたんなら、ね」

「イケメンですもんね。年上で、金もあって」

 イラっとした。

 私が、そんな上っ面で男を選り好みする女だと思われていることに。

 自分で言うのもなんだけど、私は外見で判断したりしない。

 自分がそうされて、嫌だから。

「そうね」

「麻衣さんはもっと、身持ちの堅い女性ひとだと思ってましたけど、実は遊び慣れてます?」

「は?」

 珍しく、鶴本くんが突っかかってきた。

 こんな、侮辱ともとれる発言は初めてだ。

「言葉に気をつけなさい」と、私はきつめのイントネーションで言った。

「……すみませんでした」と、鶴本くんが仕方なさそうに言った。



 絶対、悪いと思ってないわね。



 慣れ過ぎてもよくないものだ、と思った。 

 事務所までの道のり、どちらもそれ以上は口を開かなかった。


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