夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜
第一章 最悪の出会い 1
〜プロローグ〜
「俺に全部、ちょうだい」
灯りを消した薄暗い部屋の、大きな窓の向こうを眺める菜胡を後ろから抱きしめた。窓ガラスに雨が当たり始め、街の灯りが歪む。さながらすりガラスのように視界を曇らせて、淡い光の粒となって頬を照らした。
どうしようもなく菜胡のことが愛おしい。女性が苦手な棚原にとって、菜胡への恋情はもはや初恋にも似ていた。
そうなる以前は女性と深く付き合った事はあるし抱いた経験だってそれなりにある。なのに今、棚原は初めて女性を抱く時に似た緊張を感じている。菜胡を怖がらせたらいけないと、逸る気持ちを必死で堪える。だが、この腕の中に好きな女性がいるという実感が、棚原を一気に初恋へと引き戻す。
「ん」
小さく頷いて棚原の腕の中で振り向いた。吐息が混じり合いながら近づく唇はそっと重なる。
「菜胡……」
「せんせ……っ、ん……」
啄むように軽く触れ合う口づけを繰り返して、棚原の舌が菜胡の唇を割って入る。やがて境目もわからないほどに貪りあって、淫靡な音を立て始めた。
「私、どうしたら……」
「俺に任せて」
薄暗い寝室を夜の街の明かりが薄く照らす。甘くてまろやかな匂いが、露わになっていく菜胡の素肌から匂い立つ。そそられた扇情に身を任せ、口づけは下へと降りていった。
* * *
目を覚ました菜胡は、隣に愛しい人の寝顔があって一瞬困惑した。何故なんだと本気で悩み、だがすぐ思い出した。
――なん、で……そうだ……
棚原の寝顔をしばらく眺めてから、彼を起こさないようベッド脇へ足を垂らして上体を起こす。誰も居ないとはいえ、丸っ切り裸を晒す勇気はなく、布団の端を引っ張って前面を覆った。
窓の外の空は白み始めていた。眩しくはないが、昨夜は見えなかった室内が明るさでよく見えはじめていた。大きな窓と、その向こうの街並み。自分がいま腰掛けているのはダブルサイズだろうか、大きなベッドで、観葉植物が一つと間接照明器具が一つ置かれていた。ベッド以外は、本棚と机が置かれているだけのシンプルな室内だ。
ぐるりと見回してみたものの、見える範囲には着ていたものが見当たらない。反対側に落とされているんだろうか。見回した時に身体を捻った事で、太ももが露わになり、そこにあった赤い花の痕に驚いた。目に入った乳房にも同じような痕があり、これがありありと昨夜の出来事を思い出させた。
熱っぽい声で名を呼びながら何度も口付けてくる棚原。首筋にかかった熱くてやわらかな吐息はそのまま胸へと滑り落ちていき、菜胡に触れる手はどこまでも優しかった。身体が自分のものじゃないような浮き上がる感覚に不安を感じて棚原にすがった時の、大きな背中、汗ばんだ肌、熱、力強い体幹――。たちまち顔が熱くなった。
規則的な寝息を聞きながら窓の向こうをぼーっと眺める。好きな人と通じ合えた喜びを噛み締めていたら、ふいに後ろから腕が伸びてきてぐいっと引き寄せられた。
「なこ」
「わっ、あぶ……」
あっという間に棚原の腕の中だ。初めからそうだったようにぴったりと棚原の身体に沿う。うなじに軽く口付けられ、そのくすぐったさに身を捩り、腕の中で向き合う姿勢をとった。
「おはよう、菜胡……身体、平気?」
「ははは、はい、多分?」
「ん、それはよかった」
とても幸せそうな棚原と向き合い、磁石がくっつくようにおでこを合わせた。この人に抱かれたのだと改めて考えたら照れ臭くて、顔を見ていられず、思わず棚原の胸に顔を埋めた。菜胡の好きな棚原の匂いがより強く鼻腔を刺激した。
「なこ……」
名を呼ばれて顔をあげれば、熱の籠った視線と再び絡み合って、唇が重なった。
好きになるつもりはなかった。"初めて"を捧げたいと思える人に出会えると思わなかった。
「俺に全部、ちょうだい」
灯りを消した薄暗い部屋の、大きな窓の向こうを眺める菜胡を後ろから抱きしめた。窓ガラスに雨が当たり始め、街の灯りが歪む。さながらすりガラスのように視界を曇らせて、淡い光の粒となって頬を照らした。
どうしようもなく菜胡のことが愛おしい。女性が苦手な棚原にとって、菜胡への恋情はもはや初恋にも似ていた。
そうなる以前は女性と深く付き合った事はあるし抱いた経験だってそれなりにある。なのに今、棚原は初めて女性を抱く時に似た緊張を感じている。菜胡を怖がらせたらいけないと、逸る気持ちを必死で堪える。だが、この腕の中に好きな女性がいるという実感が、棚原を一気に初恋へと引き戻す。
「ん」
小さく頷いて棚原の腕の中で振り向いた。吐息が混じり合いながら近づく唇はそっと重なる。
「菜胡……」
「せんせ……っ、ん……」
啄むように軽く触れ合う口づけを繰り返して、棚原の舌が菜胡の唇を割って入る。やがて境目もわからないほどに貪りあって、淫靡な音を立て始めた。
「私、どうしたら……」
「俺に任せて」
薄暗い寝室を夜の街の明かりが薄く照らす。甘くてまろやかな匂いが、露わになっていく菜胡の素肌から匂い立つ。そそられた扇情に身を任せ、口づけは下へと降りていった。
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目を覚ました菜胡は、隣に愛しい人の寝顔があって一瞬困惑した。何故なんだと本気で悩み、だがすぐ思い出した。
――なん、で……そうだ……
棚原の寝顔をしばらく眺めてから、彼を起こさないようベッド脇へ足を垂らして上体を起こす。誰も居ないとはいえ、丸っ切り裸を晒す勇気はなく、布団の端を引っ張って前面を覆った。
窓の外の空は白み始めていた。眩しくはないが、昨夜は見えなかった室内が明るさでよく見えはじめていた。大きな窓と、その向こうの街並み。自分がいま腰掛けているのはダブルサイズだろうか、大きなベッドで、観葉植物が一つと間接照明器具が一つ置かれていた。ベッド以外は、本棚と机が置かれているだけのシンプルな室内だ。
ぐるりと見回してみたものの、見える範囲には着ていたものが見当たらない。反対側に落とされているんだろうか。見回した時に身体を捻った事で、太ももが露わになり、そこにあった赤い花の痕に驚いた。目に入った乳房にも同じような痕があり、これがありありと昨夜の出来事を思い出させた。
熱っぽい声で名を呼びながら何度も口付けてくる棚原。首筋にかかった熱くてやわらかな吐息はそのまま胸へと滑り落ちていき、菜胡に触れる手はどこまでも優しかった。身体が自分のものじゃないような浮き上がる感覚に不安を感じて棚原にすがった時の、大きな背中、汗ばんだ肌、熱、力強い体幹――。たちまち顔が熱くなった。
規則的な寝息を聞きながら窓の向こうをぼーっと眺める。好きな人と通じ合えた喜びを噛み締めていたら、ふいに後ろから腕が伸びてきてぐいっと引き寄せられた。
「なこ」
「わっ、あぶ……」
あっという間に棚原の腕の中だ。初めからそうだったようにぴったりと棚原の身体に沿う。うなじに軽く口付けられ、そのくすぐったさに身を捩り、腕の中で向き合う姿勢をとった。
「おはよう、菜胡……身体、平気?」
「ははは、はい、多分?」
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名を呼ばれて顔をあげれば、熱の籠った視線と再び絡み合って、唇が重なった。
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