黒と白と階段
此処と其処と欺瞞 2
昼休憩。
食事を終えてタイチは教室をあとにして廊下に出た。
三年生の教室は一階にあり、廊下から直接グラウンドに出れるようになっていて窓が無い。
吹きさらしであるのは非常階段と変わらないが昼間になったことで少し気温が上がって過ごしやすくなっていた。
周りを見ると同じように残りの休憩時間を廊下で過ごす生徒たちがちらほらと居た。
二人組や三人組で話していたり、複数名で廊下を走って遊んでいたり、廊下の端では校内放送で流れるアイドルソングに合わせて踊る女子たちもいる。
グラウンドでは一年生たちがボールを蹴って遊んでいた。
小学生時代と同じ様に昼休憩にグラウンドで遊ぶのは、二年生ぐらいからなんとなく憚られた。
その遊ぶ一年生もグラウンドの端で遊んでいて、それはグラウンドの支配圏が運動部にあると暗黙のルール的なものがあるからだった。
下手にグラウンドを荒らそうものなら運動部の顧問に目をつけられると、いつの間にか植え付けられた危機感。
授業で走り回ってもその後整備するわけでもないのだから、そんなものは眉唾に過ぎないのだが。
タイチは人がいる場所から離れて、校舎一階の西側、技術工作室の前の壁によりかかり午前中の授業で座りっぱなしだった身体を伸ばす。
弁当をかきこんだばかりのお腹が少し重たい。
「なんかオッサンみたいなことやってね?」
「オッサンオッサン言うなよ、上牧」
喧騒から離れた僅かな静寂を堪能しようとした矢先に、上牧に声をかけられた。
気温は上がってきたとはいえ、十一月の気温に合い服である長袖のカッターシャツだけで寒くないのかとタイチは思った。
「今日は宇野とは一緒にいないの?」
「カスミ、最近気難しくてさ。今日はそっとしておいてやる日」
「ふーん、生理的なこと?」
「いや、そうじゃねぇんだけど。それ、お前、女子に聞くなよ」
「聞くわけないだろ、そこまでデリカシーないわけじゃないって」
ほんとかよ、と上牧は肩をすくめた。
「カスミさ、あのほら、階段から落ちた人、吹田って言ったっけ。あの人と結構話してたらしくてさ」
「話してたって?」
「カスミは将来何になりたいとかそういうのが無いことが結構悩みだったらしくて、あの吹田って人、ライターとか言ってたっしょ。それに興味が湧いて話聞かせてもらってたらしいんだよ」
「取材される立場の宇野が取材してたってこと?」
吹田は取材と称し学校周辺で生徒たちに声をかけていたらしい。
それはPTAや教師陣から問題視されてホームルームの時間には、わざわざプリントに印刷された注意事まで配られた。
取材と声をかけられても答えてはいけません。
好奇心旺盛の中学生がそんな注意を素直に聞くわけがなく、世の中にたいして面倒くさがり始める中学生はそんな注意が無くても吹田の事を無視していた。
「アレだ、よく言うじゃん、男はマザコンの気があって年上の女性に惹かれやすくて、女はファザコンの気があって年上の男性に惹かれやすいってヤツ」
「そんな聞くか、それ?」
「いや一年に一回ぐらいは聞くけど、テレビで」
「そうかぁ?」
「ともかくさ、そういう理屈でカスミは吹田って人に対してちょっと憧れみたいのを持ってたっぽいんだよ。それでさ、事故のあとからはかなりへこんじゃって」
あの階段の前を通るのも嫌がるんだぜ、と上牧は続ける。
事故の起きた西階段は二階から三階の間だけではなくて全階封鎖されていて、その大袈裟なまでの黄色のテープを恐がる生徒は少なからずいた。
授業のための移動教室の際には、他学年でも怯える生徒がいることをタイチは見ていた。
学校で起こった死亡事故に恐れていたのか、それとも高塚クミのことについての取材は同級生だけを対象に行っていたわけではないのだろうか。
見知らぬ誰かの交通事故の献花を見ても何とも思わないがそれが見知った人物の事故ならより死を身近に感じる、という話なのかもしれない。
吹田マコトは何人の生徒に声をかけていたのだろうか。
何人の生徒に高塚クミについて問うていたのだろうか。
「そういうので宇野ってへこむタイプなんだね?」
「意外とか言うなよ、カスミは結構ナイーブなヤツなんだよ」
「ナイーブなヤツはいちいち人のこと目で威圧しないよ」
「目つきが悪いのはカスミの悩み所なんだから、絶対に本人に言うなよ」
上牧は悩み所というが、タイチには率先して威圧してる印象があった。
まず警戒してから話しだすタイプだ。
番犬みたいな噛みつく系女子だ。
「てかさ、それならへこんじゃってる彼女の側にいてやるのが彼氏ってもんじゃないの?」
「いつも側にいてやるってのが、必ずしも良い彼氏彼女じゃないんだよ」
「はぁ、面倒くさ」
「お前も早く彼女作ればわかるよ」
「作りたくても作れないんだよ。モテるヤツにはわかんないだよね、はぁー、デリカシーがない」
タイチが肩をすくめ、上牧がその肩を、うっせぇ、と言って小突いた。
食事を終えてタイチは教室をあとにして廊下に出た。
三年生の教室は一階にあり、廊下から直接グラウンドに出れるようになっていて窓が無い。
吹きさらしであるのは非常階段と変わらないが昼間になったことで少し気温が上がって過ごしやすくなっていた。
周りを見ると同じように残りの休憩時間を廊下で過ごす生徒たちがちらほらと居た。
二人組や三人組で話していたり、複数名で廊下を走って遊んでいたり、廊下の端では校内放送で流れるアイドルソングに合わせて踊る女子たちもいる。
グラウンドでは一年生たちがボールを蹴って遊んでいた。
小学生時代と同じ様に昼休憩にグラウンドで遊ぶのは、二年生ぐらいからなんとなく憚られた。
その遊ぶ一年生もグラウンドの端で遊んでいて、それはグラウンドの支配圏が運動部にあると暗黙のルール的なものがあるからだった。
下手にグラウンドを荒らそうものなら運動部の顧問に目をつけられると、いつの間にか植え付けられた危機感。
授業で走り回ってもその後整備するわけでもないのだから、そんなものは眉唾に過ぎないのだが。
タイチは人がいる場所から離れて、校舎一階の西側、技術工作室の前の壁によりかかり午前中の授業で座りっぱなしだった身体を伸ばす。
弁当をかきこんだばかりのお腹が少し重たい。
「なんかオッサンみたいなことやってね?」
「オッサンオッサン言うなよ、上牧」
喧騒から離れた僅かな静寂を堪能しようとした矢先に、上牧に声をかけられた。
気温は上がってきたとはいえ、十一月の気温に合い服である長袖のカッターシャツだけで寒くないのかとタイチは思った。
「今日は宇野とは一緒にいないの?」
「カスミ、最近気難しくてさ。今日はそっとしておいてやる日」
「ふーん、生理的なこと?」
「いや、そうじゃねぇんだけど。それ、お前、女子に聞くなよ」
「聞くわけないだろ、そこまでデリカシーないわけじゃないって」
ほんとかよ、と上牧は肩をすくめた。
「カスミさ、あのほら、階段から落ちた人、吹田って言ったっけ。あの人と結構話してたらしくてさ」
「話してたって?」
「カスミは将来何になりたいとかそういうのが無いことが結構悩みだったらしくて、あの吹田って人、ライターとか言ってたっしょ。それに興味が湧いて話聞かせてもらってたらしいんだよ」
「取材される立場の宇野が取材してたってこと?」
吹田は取材と称し学校周辺で生徒たちに声をかけていたらしい。
それはPTAや教師陣から問題視されてホームルームの時間には、わざわざプリントに印刷された注意事まで配られた。
取材と声をかけられても答えてはいけません。
好奇心旺盛の中学生がそんな注意を素直に聞くわけがなく、世の中にたいして面倒くさがり始める中学生はそんな注意が無くても吹田の事を無視していた。
「アレだ、よく言うじゃん、男はマザコンの気があって年上の女性に惹かれやすくて、女はファザコンの気があって年上の男性に惹かれやすいってヤツ」
「そんな聞くか、それ?」
「いや一年に一回ぐらいは聞くけど、テレビで」
「そうかぁ?」
「ともかくさ、そういう理屈でカスミは吹田って人に対してちょっと憧れみたいのを持ってたっぽいんだよ。それでさ、事故のあとからはかなりへこんじゃって」
あの階段の前を通るのも嫌がるんだぜ、と上牧は続ける。
事故の起きた西階段は二階から三階の間だけではなくて全階封鎖されていて、その大袈裟なまでの黄色のテープを恐がる生徒は少なからずいた。
授業のための移動教室の際には、他学年でも怯える生徒がいることをタイチは見ていた。
学校で起こった死亡事故に恐れていたのか、それとも高塚クミのことについての取材は同級生だけを対象に行っていたわけではないのだろうか。
見知らぬ誰かの交通事故の献花を見ても何とも思わないがそれが見知った人物の事故ならより死を身近に感じる、という話なのかもしれない。
吹田マコトは何人の生徒に声をかけていたのだろうか。
何人の生徒に高塚クミについて問うていたのだろうか。
「そういうので宇野ってへこむタイプなんだね?」
「意外とか言うなよ、カスミは結構ナイーブなヤツなんだよ」
「ナイーブなヤツはいちいち人のこと目で威圧しないよ」
「目つきが悪いのはカスミの悩み所なんだから、絶対に本人に言うなよ」
上牧は悩み所というが、タイチには率先して威圧してる印象があった。
まず警戒してから話しだすタイプだ。
番犬みたいな噛みつく系女子だ。
「てかさ、それならへこんじゃってる彼女の側にいてやるのが彼氏ってもんじゃないの?」
「いつも側にいてやるってのが、必ずしも良い彼氏彼女じゃないんだよ」
「はぁ、面倒くさ」
「お前も早く彼女作ればわかるよ」
「作りたくても作れないんだよ。モテるヤツにはわかんないだよね、はぁー、デリカシーがない」
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