黒と白と階段
時と砂と新聞 13
「……射場」
上牧がタイチを呼び止める。
タイチは振り返らずに足だけ止めた。
「高塚に謝っといてくれ」
「自分で言えよ」
タイチはそう言って教室を出ていった。
「なんで謝ろうと思ったの? ワタル、悪くないじゃん」
ずっと黙ってた宇野が口を開いた。
何故だか、嫉妬のような感情がモヤモヤと宇野の中に生まれていた。
何故だか?
いや、答えははっきりしてる。
上牧は。
「俺さ、お前と付き合うまでずっと高塚が好きだったんだよ」
当たり前のように告白する上牧が、宇野は苛ただしたかった。
「……それが?」
「何だか遠くを見てるようなそんな目が好きだった」
「だから、何よ?」
宇野の口調が強くなる。
モヤモヤとしたものがハッキリとした形になる。
クミへの嫉妬。
「見透かされてたんだよ、多分。俺が高塚達にただ意見合わせてたって」
「だけど、それは……」
「お前も俺に意見合わせただけだろ」
上牧にそう言われて宇野は黙った。
それが、返事みたいなものだった。
「謝らないと、いけないだろ?」
宇野は答えれず、上牧の手を握った。
上牧はその手を優しく握り返した。
タイチは急いで靴を履き替えてクミの姿を探した。
クミは、後門で誰かを待っていた。
いや、自分を待っている。
タイチはそう思った。
「高塚」
「……射場君」
名を呼ぶと、クミは手を振った。
やはり自分を待っていたんだ。
タイチはそう実感すると嬉しくなった。
例え、待っている理由が直接自分に関係無くても。
「追いかけてきてくれたの?」
ストレートにそう問われると何だか恥ずかしかったが、タイチは素直に頷いた。
「上牧達の事、あんまり機嫌良さそうじゃなかったから」
「怒ってる、って聞かないんだね?」
クミはそう言うと歩を進めた。
タイチも横に並んで歩いた。
「怒ってる?」
「怒ってないよ」
「……だろうな」
タイチがそう答えると、クミはクスクスと笑った。
「何か見透かされてるみたい」
「そんなにすごいことじゃないよ」
何でも見透かせれば、それは楽なんだろうか。
それとも、苦痛なんだろうか。
「上牧君とカスミ、何か言ってた?」
「気になる?」
う~ん、と唸るクミ。
「何だか聞くのが怖い、かな」
「悪口は言ってないよ」
うん、と頷くクミ。
「だろうね」
「口調を真似するなよ」
クスクスとクミが笑う。
タイチが思ってたよりクミは先程の事を気にしていないのだろうか。
やっぱりクミの事はよくわからない。
小学生の頃からずっと。
クミの事は、わからない。
「上牧は謝りたいって言ってたよ」
「謝りたいって?」
「そう、謝りたいって」
そっか、とクミは頷いた。
そっかそっか、とクミは何度も頷いた。
「ありがとう、射場君」
クミはそう言って微笑んだ。
自分は何もしてはいない、そうタイチは言おうとしたがクミの笑顔が嬉しくて黙ることにした。
「射場君と帰るの初めてだね」
「そうだな」
「富田君はいいの?」
不意をつくような質問にタイチはビックリした。
「アツシは帰る方向逆なんだよ」
「待たなくてもいいの?」
「え、うん。いつも一緒ってわけじゃないし」
淋しがりの親友の顔が頭に浮かんだ。
随分と遊んでいない気がする。
あれから彼女と上手くいっているのだろうか?
「そっか、いつも一緒で羨ましいなぁって思ってたんだけどなぁ」
「羨ましい?」
タイチの問いにクミは頷く。
「そ。私そういう友達いないから」
何となくクミの瞳が淋しそうに見えて、タイチは驚いた。
いつか見た、何処か遠くを見る瞳。
「意外?」
何も言えなくなったタイチに、クミは笑ってそう聞いた。
その笑顔に淋しさが混じっていないことにタイチは驚いて、声も出さず頷いた。
「何となくね、なんだか変な距離取っちゃうんだよね」
「変な距離?」
タイチにとってみれば、今この瞬間も高塚クミとの距離に驚きを感じている。
彼女と出会って初めて手がぶつかりそうな距離で歩いている。
「そ。一歩か二歩か。私とあなたは学校じゃ仲いいけどそれまでですよ~っていう距離」
ずっとタイチが憧れた距離だ。
最近になって、やっとその距離に慣れたところだった。
それが今はより近くにいる。
だがそれは、物理的な距離の話。
クミの話は精神的な距離の話だ。
ならば、タイチは今どれ程の距離に立っていれてるのだろう?
「どっちが?」
「どっちがって?」
「高塚が? 相手が?」
「お互い、かな」
「何で?」
立て続けられるタイチの問いに、クミは一呼吸置いた。
そっと、タイチから視線を外す。
「すごくストレートに聞くね」
タイチもクミから視線を外した。
といっても、タイチは緊張からさっきからキョロキョロと落ち着かずにいた。
真横にいるクミを見たい気持ちよりも、クミに間近で見られている事が恥ずかしくてまともに顔が見続けれなかった。
上牧がタイチを呼び止める。
タイチは振り返らずに足だけ止めた。
「高塚に謝っといてくれ」
「自分で言えよ」
タイチはそう言って教室を出ていった。
「なんで謝ろうと思ったの? ワタル、悪くないじゃん」
ずっと黙ってた宇野が口を開いた。
何故だか、嫉妬のような感情がモヤモヤと宇野の中に生まれていた。
何故だか?
いや、答えははっきりしてる。
上牧は。
「俺さ、お前と付き合うまでずっと高塚が好きだったんだよ」
当たり前のように告白する上牧が、宇野は苛ただしたかった。
「……それが?」
「何だか遠くを見てるようなそんな目が好きだった」
「だから、何よ?」
宇野の口調が強くなる。
モヤモヤとしたものがハッキリとした形になる。
クミへの嫉妬。
「見透かされてたんだよ、多分。俺が高塚達にただ意見合わせてたって」
「だけど、それは……」
「お前も俺に意見合わせただけだろ」
上牧にそう言われて宇野は黙った。
それが、返事みたいなものだった。
「謝らないと、いけないだろ?」
宇野は答えれず、上牧の手を握った。
上牧はその手を優しく握り返した。
タイチは急いで靴を履き替えてクミの姿を探した。
クミは、後門で誰かを待っていた。
いや、自分を待っている。
タイチはそう思った。
「高塚」
「……射場君」
名を呼ぶと、クミは手を振った。
やはり自分を待っていたんだ。
タイチはそう実感すると嬉しくなった。
例え、待っている理由が直接自分に関係無くても。
「追いかけてきてくれたの?」
ストレートにそう問われると何だか恥ずかしかったが、タイチは素直に頷いた。
「上牧達の事、あんまり機嫌良さそうじゃなかったから」
「怒ってる、って聞かないんだね?」
クミはそう言うと歩を進めた。
タイチも横に並んで歩いた。
「怒ってる?」
「怒ってないよ」
「……だろうな」
タイチがそう答えると、クミはクスクスと笑った。
「何か見透かされてるみたい」
「そんなにすごいことじゃないよ」
何でも見透かせれば、それは楽なんだろうか。
それとも、苦痛なんだろうか。
「上牧君とカスミ、何か言ってた?」
「気になる?」
う~ん、と唸るクミ。
「何だか聞くのが怖い、かな」
「悪口は言ってないよ」
うん、と頷くクミ。
「だろうね」
「口調を真似するなよ」
クスクスとクミが笑う。
タイチが思ってたよりクミは先程の事を気にしていないのだろうか。
やっぱりクミの事はよくわからない。
小学生の頃からずっと。
クミの事は、わからない。
「上牧は謝りたいって言ってたよ」
「謝りたいって?」
「そう、謝りたいって」
そっか、とクミは頷いた。
そっかそっか、とクミは何度も頷いた。
「ありがとう、射場君」
クミはそう言って微笑んだ。
自分は何もしてはいない、そうタイチは言おうとしたがクミの笑顔が嬉しくて黙ることにした。
「射場君と帰るの初めてだね」
「そうだな」
「富田君はいいの?」
不意をつくような質問にタイチはビックリした。
「アツシは帰る方向逆なんだよ」
「待たなくてもいいの?」
「え、うん。いつも一緒ってわけじゃないし」
淋しがりの親友の顔が頭に浮かんだ。
随分と遊んでいない気がする。
あれから彼女と上手くいっているのだろうか?
「そっか、いつも一緒で羨ましいなぁって思ってたんだけどなぁ」
「羨ましい?」
タイチの問いにクミは頷く。
「そ。私そういう友達いないから」
何となくクミの瞳が淋しそうに見えて、タイチは驚いた。
いつか見た、何処か遠くを見る瞳。
「意外?」
何も言えなくなったタイチに、クミは笑ってそう聞いた。
その笑顔に淋しさが混じっていないことにタイチは驚いて、声も出さず頷いた。
「何となくね、なんだか変な距離取っちゃうんだよね」
「変な距離?」
タイチにとってみれば、今この瞬間も高塚クミとの距離に驚きを感じている。
彼女と出会って初めて手がぶつかりそうな距離で歩いている。
「そ。一歩か二歩か。私とあなたは学校じゃ仲いいけどそれまでですよ~っていう距離」
ずっとタイチが憧れた距離だ。
最近になって、やっとその距離に慣れたところだった。
それが今はより近くにいる。
だがそれは、物理的な距離の話。
クミの話は精神的な距離の話だ。
ならば、タイチは今どれ程の距離に立っていれてるのだろう?
「どっちが?」
「どっちがって?」
「高塚が? 相手が?」
「お互い、かな」
「何で?」
立て続けられるタイチの問いに、クミは一呼吸置いた。
そっと、タイチから視線を外す。
「すごくストレートに聞くね」
タイチもクミから視線を外した。
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