ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハカタ

味噌村 幸太郎

真の友情、テクニック!


 通所し出して、三週間ぐらいたった。
 正直、他の利用者さんは、みんな在宅ワークが多くて、作業所に集まる人たちは、ほぼ決まっていた。

 せいぜいが5人程度。
 中でも初日からほぼ、一緒に通っていた若い男の子とよく話をしていた。
 名前は、イケボ・ボーボボボくん。
 通称、ボーくん。

 しかし彼もコミュ障だ。
 僕と年の差を感じて、敬語でやりとりをしていた。
 確かに20歳も年が違うので、彼も気を使っていたのだと思う。
 僕は彼と仲を深めたいと思い「もうタメ口で話そうよ」と提案した。
 その案を呑んではくれたが、やはりどうにも気まずい。

 お互い、腹の探りあい。気を使いまくっていた。

 そんな時に、新しい講師として途中から雇用されたのが、パソコンに詳しいローリー・ストーンズさんだ。

 僕が男の娘ものを書いてると自己紹介すると、
 彼は
「マジっすか!? 俺も男の娘大好きなんすよ! 味噌村さんの作品読んでいいですか!?」
 と嬉しそうに話す。
 もちろん、僕は
「いいですよ」
 と答える。
 だって、初日に斑済さんに音読されたから、もう恥なんてなかったから。

 その後、ローリーさんにも取材として、
「好きなキャラと嫌いなキャラを教えてください」
 と質問をする。
 彼はそれを快く承諾してくれた。


「俺の好きなキャラは『このすば』のめぐみんとか」
「ああ、あれでしょ?  ファイアーしかできない子でしょ」
 すると彼は興奮した様子で叫ぶ。
「違いますよ! めぐみんは爆裂魔法でしょうが!」
 怒られてしまった。
「あと、アレは外せないっすねぇ。木之本 桜きのもと さくら
「ん? キノモト? なんですか、それ? ちょっとググっていいすか?」
 すると、彼は僕のスマホを取り上げ、
「なんで分からないんすか! 木之本 桜は、世界共通用語! 常識でしょうが!」
 検索結果を見せられてようやく理解した。
「あぁ、『カードキャプター』の子っすね。世代じゃないんで、わからなかったです」
 そんな話で彼と盛り上がっていると、近くにいたボーくんも話に入ってきた。
 他にも普段静かな男の子も。

 話題は変わり、なんでかみんなが大好き「獣の先輩」の話になる。
 作業所には、ソファーがあって、色も形もあのビデオに酷似していた。
 だから、僕はノリで例の男優さんみたいにドシッと座り込む。
「やり……」
 いいかけたところで、ローリーさんが察したのか、咄嗟に僕の膝をぐっと抑えた。
「ちょっ!? やめてください! ここは職場ですよ!」
「なんでです? 作業所でしょ? いいじゃないっすか。やり……」
「やめてくださいって!」
 同様のやり取りを繰り返す。

 すると、近くにいたボーくんがゲラゲラ笑っていた。
 男子特有のノリを見て、熟田さんも会話に入りたそうにしていた。

 その流れで、話題は更に過激になり、『ヤマジュン』の話になる。
 ローリーさんが、知識のない利用者さんがいたので、わざわざ説明していた。
 その光景を見て、僕は彼にこう切り出す。

「それ、ありますよ。うちに」
 驚きを隠せないローリーさん。
「う、ウソでしょ!?」
「マジですよ、家にあります。『ヤマジュンパーフェクト』」
「味噌村さん。なんで持ってんすか!?」
「だって興味があったから」

 彼には言わなかったが、結婚して間もない頃、ニコニコ動画でソレを見つけた僕は、ハマリにハマった。(夫婦で)
 動画の黒塗りが気になって、現物が欲しくなり、ちょうど妊娠していた妻に許可を得て、購入したものだ。
 妊娠中、産後と夫婦でよく読んでいた。
 長女が歩き始めた頃には、名残惜しかったが。自室の押し入れに封印した。


「マジっすか! なら、今度作業所に持ってきてくれませんか?」
「いいですよ」
「でも、あれだな。ここは職場なんで、何かカバーをつけて持ってきましょう。うーん、サイズ的に『ゆるゆり』がいいっすね」
 そこで僕は、また彼の言ってることがわからなかった。
「ん? ゆるゆりってなんですか?」
「はぁ!? 味噌村さん、ゆるゆりを知らないんですか!?」
「え、はい」
「もーう、味噌村さんは結婚してるし、言うほどオタクじゃないんすよ! ちゃんとアニメ見て勉強してくださいよ!」
 また叱られちゃったよと思い、近くにいたボーくんに話を振ってみる。
「え、ボーくんたちは知ってるの?」
 すると彼らは黙って頷いてみせる。
「ほらぁ、味噌村さんが知らないだけっすよ!」

 次の日、僕は約束通り、ヤマジュンパーフェクトを作業所に持参してきた。
 カバーはそのままで。

 すると、いざ提案したローリーさんは黒塗りもない現物を見て、拒絶反応を出す。
「うわっ……しんどっ!」
 そう言って、逃げてしまった。
 腐女子の熟田さんは興味津々のようだ。
「すごぉい!  初めて現物を見たぁ。これ、味噌村さんが買ったんですか?」
「ええ」
「私でも持ってないのに。なんで買ったんですか?」
「興味があったので買いましたよ、普通に。駿河屋で5000円ぐらい」
「たっか! よく買いましたね」

 あとはもうお祭り騒ぎだ。
 免疫のある人はニヤニヤ笑うし、ない人は吐き気を感じたり。

 中でも一番、気に入ったのはボーくんだ。
 彼は当時やることがなかったので、僕が持ってきたヤマジュンを食い入るように眺めていた。
 下手したら4時間ぐらい。

 それ以来だ。
 彼との友情が深まったのは。
 僕がボーくんの隣の席に座ると。
「よかったのかホイホイついてきて。俺はノンケだってかまわないで食っちまう人間なんだぜ」
「やらないか?」
 とイケボで囁く。

 僕はゲラゲラ笑う。
「え、やらないか?」
 すると、彼は否定する。
「違うよ。もっと腹から声を出して。やらないか!?」
「こう? やらないか!?」
 そんなことで、気がついたら、お互いタメ口の関係になれていた。

 20歳という年の差をぶっ壊してくれたのは、ヤマジュンだった。
 
 以来、彼とは建前なしの本音で話せる20年ぶりの親友となった。

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