第三章　世界の果てと見えない未来図。

世界の夜明けと共に（９）

　フィッシュオンで特殊報道番組を視聴する。それが主目的だ。
カナメ先輩がモニタ画面を調達してくれた。静かに全集中する。

　だがしかし定位置で考えている。隣席は永依とココの二人だ。
サクラちゃんが一人ウエイトレス。カウンターはカナメ先輩だ。

　姿を見せないが亮くんは調理場にいるよ。忙しい最中だろう。

　血の繋がりで業務に関連する姉夫婦。いつしか店から消えた。
忙しさに追われた英雄さん。コーキさんまで見かけなくなった。

　これから英田副総裁の発表で『新三国同盟』締結記者会見だ。

　世界中からジャーナリストが百人以上集まる状況。記者会見の
始まり。司会者に選ばれた男性の厳かな紹介で閣下が来場した。

「こりゃまた大勢の皆さんだよ。朝早くからご苦労さん。簡潔に
説明するからな。質疑の応答については応じない場合もあるぞ」

　普段のべらんめぇ口調は鳴りを潜めて淡々とした真摯な宣言。

「詳しくは入場の書面にある。後からじっくり眺めてくれよな。
最初からだ……」真面目な姿に戸惑いを隠せない様子の永依だ。

　もちろん隣に座るココ。興味なくてもモニタ画面は見つめる。

「マジにおかしな状況だ」伝説の誕生を脳内だけで振り返る……
国家主席を同伴に帰国した。首都モスクワに凱旋した大統領だ。

　その行動も凄まじい。財閥に依存した政敵を速攻で駆逐した。

　表舞台に戻った大統領だ。抜本的改革と履行宣言。すぐに政権
掌握したらしい。即座の地域紛争終結。早期に三国対等条約だ。

　条約を締結するためにも政府間で調整中だと聴かされている。

　国家主席も古い体質の党派にメスを入れる改革だ。少数民族を
擁護する形に方針の転換だった。国境紛争も即座に停止される。

　これは裏事情もある。ダンジョンが発生した場所に由来する。
発表できない大陸主要都市の八か所だ。ダンジョンが誕生した。

　問題だらけの香港も住民気質で反発されたが無事に和解する。

　日本と関連深い台北もダンジョンで方針転換して危機回避だ。

　ロシアが実効支配の北方領土樺太にもダンジョンが誕生した。
日本と共同統治で開発する形式に転換。政府間の協議中らしい。

　結果としては半島を分割支配する国が世界で孤立する現状だ。

　ダンジョンを創造した圧倒的存在の意志は誰にもわからない。
そもそも肉体を伴う存在で実体か。現実でも確認されていない。

　直接ではないのだ。ダンジョンを媒介にした主要国の介入だ。
支持された三人が世界の安定化に貢献している。それが現状だ。

　呑気な性格でも考える。早期に人類がダンジョンを攻略する。
結果の掌返し。人類をすべて滅ぼすか地球を支配するのだろう。

　古い科学空想小説……俗にいうＳＦのカタストロフィ展開だ。
異星人が侵略する可能性まで妄想してみるが笑いも止まらない。

　人類に近い思考の侵略者。ダンジョンを用意するのだろうか？

　すべてに共通する敵対存在がいなければ物語は展開できない。

　敵か味方かも方向性の問題。７０億人もいる知的な生命体だ。
実効支配が目的と仮定してもおかしい。ダンジョンとはなんだ？

　そもそも人間の手で捨てられた。仔ウサギにすぎないココだ。
分からないなかでもココはただ空腹死から逃れたい一心だった。

　その結果として半強制的に新しい身体と知能まで授けられた。
それに近い状況で空想したのが旧約聖書の創世記。その物語だ。

　世界で一番売れた本。しかもベストセラー小説は聖書らしい。

　この星の誕生とされる天地の創造だ。神の手により完了する。

　最初の人間二人も創造される。土と人の意味を持つ男アダムと
生命の女がイブだ。蛇にそそのかされて知識の実を食べるイブ。

　子を育むが命の実を食べないように神から楽園を追放される。

　神はいないと理解している。だがしかしダンジョン創造者だ。
音声だけで映らない対象。それでも世界には実在しているんだ。

　それに知識と肉体をココに与えてからダンジョンを追放した。
正しくは永依の奴隷扱いだ。それから現実世界に放逐したんだ。

　どこか似ているが元になる視点も異なる。ダンジョン創造者が
神に近似する存在。そう仮定しても最終的な目的が分からない。

　現実は物語じゃない。マンガと小説にアニメも誰かの創造だ。
個人の想像であり集団で創作した作品として発表されるものだ。