巨乳バニーガールと最強空手ギャルが弱虫オタクと同棲中~検証ダンジョン必勝ガイド

ノベルバユーザー587413

第二章 社会と現実はさほど甘くない。

バニーちゃんと一緒(10)

「ふふふ。女子に年齢きくのは禁句ってケージくんしらない?」

 車いすの女性は……一見すると中学生に見えた。少女は年長で
高校三年生だ。真里と名乗った少女と語らえる場所は院内学級。


 そのような制度が存在することも理解していないから驚いた。

 当時……陸上競技。短距離走にのめりこんだ。姉に布教された
アニメーション。主人公の島村ジョーに強く憧れたのが原因だ。

 半世紀以上も昔の漫画らしい設定だ。絵柄に目新しさもない。
金髪美人の恋人。同じ名前で呼ばれていることが妬ましかった。

「加速装置!」奥歯スイッチに舌で触れ主人公が起動する能力。
制御できるのが『知覚・思考・運動』力を加速するギミックだ。

「改めてケージくんは昭和時代の二期だっけ? 車のレーサー。
原作者の大先生も関わるアニメ版よね。あのジョー君そっくり」


 理想を具現化したような人間離れした真里。天使の微笑みだ。
「見舞いに訪問したクラブのバカだな。誰かに聴いたんだよね」

「うん。おかしくて笑いがとまらないよ。あとでネタだからって
説明されたけど。『加速装置!』叫んで走り切るのがスゴイよ」

 上体を曲げる微笑ましい彼女の姿。遥かな過去でも忘れない。

 ずっと一緒にすごしたい相手。決意するまでは割と早かった。

 精密検査も段階が進むごとに早期の決断を迫られる。右脚との
等価交換だった。命と交換することは二者択一でも無理だろう。

「二度と走れなくなってもぜんぜん構わない。これからも真里が
傍にいてくれるならいい。それで十分だ」静かに伝えるだけだ。


「そうね。わたしたち結婚するの。子供が生まれる未来予想図」

 あれは手術直前で控室の会話だったかな……ストレッチャーに
乗せ換えられた。右手を握りしめると最後に真里がつぶやいた。

「ケージくんの手術。無事に終われば……わたしの家族も紹介」

「うん。結婚可能な年齢まで二年もないよ……その間も真里とは
一緒にいたい。お互い頑張ろう」即座に応じたのも本気だから。

「うん。ケージくん手術のオマジナイ。わたしを忘れないでね」

 つぶやく真里。車いすから体を伸ばしながら口づけをされた。
「初めてのチュウ……ケージくんの無事。幸せな未来を願うの」


「オレも初めて……嬉しいよ」きっと顔を赤らめてつぶやいた。
微笑ましい状況を見守った看護師さんもようやく移動開始した。

「ケージくん。また逢えたら楽しく話そうね。最後のお願いよ」
 暖かい記憶なんだ。現在も精神と肉体を捉えながら離さない。

 まだ五体満足で一年生だったよね。忘れようもない思い出だ。

 真里の初キスがオマジナイ。有効だったようで問題なく手術も
成功したらしい。同時に右脚も大腿骨から下側は義足の生活だ。

 夢のようだった短い入院生活。しばらく退院後は放心状態だ。
当初未来の目標を実現するために復学の予定だったけど諦めた。


 手術を終えて真里の姿を目にすることは一度もなかったんだ。
彼女の病室はその痕跡を失ってアンタッチャブルな状態だった。

 病院で働く誰かに質問できる雰囲気もなく茫然とするだけだ。

 やつれた様子はない。直前にキスされた際も頬を赤く染めた。
車いす上で明るく両掌を振る姿。悲壮感もなくすべて謎だった。

 現在も約束は忘れていない。いつか再会したら渡そうと考えて
婚約指輪を購入するぐらいには本気なんだ。感情も変わらない。


 過去は変わらないが未来になにが起こるか誰にもわからない。
「ネーちゃん学園相手の手続きだけでいい。オレが説明するよ」

 いつか訪れるかもしれない未来だ。それよりココが最優先だと
心を切り替える。順序よく解決していくだけでも限界なんだよ。

「なら明日。こちらから学園の昼休みに尋ねると連絡するから」
 右手でボールペンを振りながらテーブル上の手帳に記入する。

「そっちも明日の日中かよ。ケージ! ここから一番近い九条の
ホンダカーズだ。早朝CIVICが鈴鹿から陸送されるからな」

 テーブルの対面に座った英雄さんがこちらを見ながら伝える。


「えぇっ? たしか今日って節分だよね。大阪の海苔業者が販売
促進に考えたイベント。恵方……どっちだ? 目をつぶりながら
無言で願い事して太巻き食べる日だよね」思案しながら応じた。

「今日は二月三日だぜ。おぉっ確かに節分じゃないか。なになに
今日が先負。明日は仏滅か」スマホで調べた英雄さんが哀しむ。

「いやいやいや。納車日なんて関係ないからどうでもいいっす。
それよかネーちゃん。明日はなんかの開催じゃなかったっけ?」

 突然のダンジョン地震から日常生活自体が曖昧な状態だった。

「ん? たぶんあれじゃないか。北京の冬季オリンピック開催」
 応える姉の圭子に一瞬の迷いもない。きっぱりとした即答だ。


「あぁ。そんなのもあったよね。興味の欠片もない話題でさぁ」

 さすが世間一般には優秀さで名高い女弁護士だ。感心しながら
即応するだけだ。だがしかしこの会話がある種の分水嶺だった。

 この世の中は想像しない事象まみれ。現実も重ねて変異する。

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