【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

最終章 ずっと私は貴方のもの4

「私からもよろしくお願いします」

漸も一緒に、あたまを下げてくれる。
そのまま父の返事を待った。

「鹿乃子の頑固は俺譲りだ。
好きにさせてやれ」

「じじぃはいつも、鹿乃子に甘すぎるんだよ」

祖父と父の声が聞こえてきて、あたまを上げた。

「鹿乃子の食い扶持くらい俺が……って、いまは漸がいるじゃねぇかよ」

言いかけた祖父か、へへっ、と照れくさそうに笑った。

「はい、鹿乃子さんは私がしっかり養いますので大丈夫です」

うん、と力強く、漸が頷く。

「鹿乃子はまだ若いからいいが、漸くんにはそのあいだ、子供を待たせることになるんだぞ」

父に言われてようやく気づいた。
漸は早く、子供が欲しいと言っていたのに。

「あー、……考えてなかった。
会員資格が取れるようになるまで、最低五年の修行が必要だったっけ?」

と、いうことは、私の修行が終わる頃には漸は四十一歳なのか……。

「私は別に、かまいません。
鹿乃子さんには鹿乃子さんの好きなことをしてもらいたいので」

「漸……」

私の手を握り、漸が頷いてくれる。
その気持ちは嬉しいが、私も漸と一緒で漸の願いは叶えてあげたいのだ。

「あ、じゃあ、先に子供産んで子育てしてから修行するとか?
あー、でもそれだと、じいちゃんから教えてもらえなくなるかも……」

こんなとき、女の自分が恨めしい。
男ならそんなこと関係なく、修行ができるのに。

「けっ、俺は百まで現役で続けるからな、問題ねぇ」

吐き捨てるように言う、祖父が頼もしい。
いや、祖父にはいつまでの元気でいてもらいたいが、百まで現役はさすがに難しいだろう。

「莫迦か、そんなに簡単に子供が授かれたら苦労はない。
できるまでじいさんにガンガン詰め込んでもらえ。
それで落ち着いてから再開すればいい。
人よりは時間がかかるだろうがな」

「父さん……」

また父は首の後ろを掻いている。
なんとしてでも絶対反対なんだと思っていた。

「鹿乃子はこうと決めたらてこでも動かないからな。
仕方ない」

「ありがとう、父さん、じいちゃん。
漸も!」

きっとこれから困難ばかりなんだろうけれど。
でも、私は頑張るんだ。

「あ、これ、仕立ては母さんとばあさんがしてくれたんだ。
礼を言っておけよ」

「うん」

花嫁衣装は我が家に持って帰っても保管に困るので、その日まで実家で預かってもらうことにした。
そっか、この衣装、家族全員の愛情がこもっているんだ。
着る日が、楽しみだな。

「漸さん」

母屋に戻った途端、漸は祖母に連行された。
なにをやっているのか部屋を覗いたら、……採寸、されている。

「ばあちゃん、なにやってるの?」

「せっかくの晴れ舞台なんだから、漸さんの衣装も新調してあげたくて。
あとこれ、サイズも微妙にあってないし、仕立てが雑なのよね……」

はぁっ、と祖母が呆れるようにため息を落とす。

「サイズは……まあ、うちのものがやったのであれですが、仕立てが雑ですか?
それなりのところへ出しているのですが」

「そうよ。
こことか、袋ができているし」

「どこ……?」

祖母の指す場所をよく見たら、袖の部分が裏地と表地のサイズがあっていないのか僅かに表地に膨らみがある。
とはいえ、本当によく見ないとわからない程度なんだけど。

「襟もここ、攣ってるし」

「どこ……?」

またよく見るが、全くもって私にはわかりません!

「まあ、安い仕立てなら仕方ないんでしょうけど……」

はぁっ、とまた、祖母の口からため息が落ちる。
いやいや、三橋呉服店の仕立てですよ?
客からはそれなりの仕立賃をとっているはずです。

「そうなんですね……」

祖母の言葉で漸はかなり、落ち込んでいる。
漸にしてみればショックだよね、そんな仕立てのものをお客様に出していたなんて。

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