【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

最終章 ずっと私は貴方のもの1

十一月二十二日。
いい夫婦に日に私たちは入籍した。

「これで私は、本当に鹿乃子さんのものです」

帰ってきてからずっと、作った結婚証明書を漸は嬉しそうににこにこ笑って見ている。

「私も漸のものになったということです」

ちゅっ、と軽く、唇を重ねる。
意外だったのは、祖父が早めの入籍を勧めてきたことだ。
本来なら年末に返事をもらうはずだったし、式は春を予定しているから、入籍はそのどちらかにあわせて、という話だった。

『なんでぇ、もう事実上の夫婦なんだから、さっさと籍入れてしまえ』

なんて照れくさそうに首の後ろをぼりぼり掻きながら言われ、ありがたくそれに従ったというわけだ。

「でも、よかったんですか?」

婚姻届の、婚姻後の夫婦の氏は妻の氏にチェックを入れた。
ということは漸は、三橋漸から有坂漸になったということだ。

「いいんですよ。
だいたい、養子縁組みは絶対ダメだっておじい様が首を立てに振ってくださらないから」

はぁっ、と漸の口からため息が落ち、苦笑いしかできない。
結婚のお願いに私の実家へ行ったとき、漸は婿養子にしてくれともお願いしたのだ。
でも、俺はそこまでてめぇの人生に責任は持てない、と反対された。

……祖父に。

いや、養子縁組みをするのは父なんだけどね?
まあいいけど。

「けど、あとで怒られないですかね……」

両親も祖父母もまだ、漸が有坂姓になったことを知らない。
保証人のサインをもらいに行ったときにチェックが入っていないと指摘されたが、あとで入れるからと誤魔化した。

「もう書類は受理されましたからね、問題はありません」

漸は涼しい顔でコーヒーを飲んでいるけれど。
いいのかなー、本当に。

「実家には何時頃、行きますか?」

「そろそろ準備した方がいいかもしれません」

今日の夕食はお祝いだからと、実家に招待されていた。

「じゃあ着付け、しますか?」

「はい、お願いします」

入籍のお祝いだからきちんとした装いをしたくて、祖父の訪問着を選んだ。
そういうわけで今日は、漸の着付けというわけだ。

「それで漸は、紋付き袴なんですね」

「え、なにかおかしいですか?」

「いえ……」

結婚のお願いのときも紋付き袴で行って引かれたんだよねー。
いや、スーツと同等の正装、となればそうなるのはわかるんだけど。

「あ、タクシー、来たみたいですよ」

「はい」

戸締まりを確認して家を出る。
今日は飲むのがわかっているので、タクシーだ。

「ただいまー」

「お邪魔します……」

「おう、鹿乃子、来たのか」

実家ではすぐに祖父が、出迎えてくれた。

「それ、俺が作ってやった訪問着じゃねぇか」

漸を一瞥しただけで、あがれと祖父が促す。
もうあれに、ツッコむ気はないらしい。

「うん。
……似合ってる、かな」

いまさらながら気づく。
これに初めて袖を通したのは漸の実家へ行ったときで、祖父にはまだ着姿を見せていないのだと。

「よく似合ってる。
もういっぱしの若奥様だ……」

徐々に祖父の声が鼻づまりになっていき、とうとう、うっうっと声を詰まらせて泣きだした。

「えっ、ちょっと!
泣かないでよ!」

「すまねぇ、勝五郎を子分にしていた鹿乃子が、結婚かと思うとよぅ」

「うっ」

ずびっ、と祖父は鼻を啜ったが、……それは黒歴史なので勘弁してください。

「あらーっ、鹿乃子、綺麗ねー」

「おっ、それ、じいさんが鹿乃子の成人の祝いに作った奴じゃないか。
さすが、似合ってるな」

「鹿乃子、綺麗だわ」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品