【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

第11章 ラスボス登場?5

なにを莫迦なことを言っているのかと、間髪入れずに答えが返ってきた。

「どこが、ですか?」

「どこ……?」

さっきは即答だったのに、今度は盛んに首を捻っている。

「反対に貴方は、どこが好きなの?」

おお、質問が返ってきたぞ!

「そうですね、とことん私には甘いのに、ダメなことはちゃんとダメだと叱ってくれるところとか。
私はもちろん幸せにしてくれるんですが、家族も幸せにしたいとか考えてくれるところだったり。
諦めるって字が辞書にないんじゃないかってくらい自信満々なのに、私に嫌われるのが怖かったり。
嫌われるのが怖い癖に、自分の見せたくないところまで全部、私に晒してくれるところとかですかね。
あ、あと」

「もういいわ……」

行儀悪くテーブルに頬杖をついた彼女が、呆れるようにため息を吐く。

「なにそれ、のろけ?」

「そーなるんですかね……?」

うん、途中からそのときの漸を思いだして、だらしなく顔が崩れていた自信があるだけに、なにも言えない。

「私は……しいていえば、顔」

「しいていえば?」

とは、無理矢理絞り出したら、ってことですか?

「あなたは顔って即答しないのね?」

「あー、好きですよ、顔。
あの顔であの身長であのスタイルで、しかもあの長髪でしょう?
眼鏡で顔面偏差値爆上がりさせたうえでスーツはもう最高ですし、着物も最高ですね。
あ、いままで着流しスタイルでしか見たことないんですが、もしかして袴も最高なんじゃ……?
これはぜひ、今度……」

ヤバい、想像したら鼻息が荒くなってくる。
袴でオプション日本刀って最高じゃない?
いやいや、書生スタイルも捨てがたく……。

「もー、いいわ……」

はぁーっ、とため息の音が聞こえてきて、現実に戻った。

「……なんか、すみません」

ううっ、穴掘って埋まりたい。
きっと妄想、垂れ流していたし。

「なんだかあなたが羨ましいわ」

彼女の手が皿に盛られたままのお菓子に伸びる。

「私はお父様がこの人と結婚しなさない、と言えば、その人と結婚するしかないの。
その人がどんな人かだとか知る必要もないし、まあ、顔がよかったらいいかな、くらいで。
……これ、美味しいわ。
どこで売ってるの?」

サクサクといい音をさせてひとつ食べ、さらに手を伸ばす。

「お土産店ならどこでも。
金沢駅でも売っています。
あの。
ひとつ確認しますが、いまって……昭和も初期とかじゃないですよね?」

なら、わかる。
漸も言っていた、会ってその日に祝言なんて珍しくもない時代だ。
でもいまは、平成も終わって令和のはず。

「私たちの世界ではそれが当たり前なの。
庶民にはわからないだろうけど」

「あっ」

投げつけられた空袋が、私の顔に当たって落ちた。

「漸はそういう世界に生きている人間だし、家業が家業だから上の人間には逆らえない。
なのに私との婚約を破棄するなんて言いだしたから、お父様は激怒してる」

「……」

これってラスボスは荒木田総理で、クリアしないと漸は奪われるってことでしょうか……?

「……それは非常にマズいです」

「でしょ?
身を引いた方が、あなたのためでも漸のためでも……」

「私ごとき小娘に倒されたとなれば、荒木田総理の評価がいよいよ地に落ちます」

「……は?」

新しい袋を開けようとしていた彼女の手が止まった。

「あなた、お父様を倒す気なの?」

真円を描くほど大きく、彼女の目が見開かれる。

「当たり前じゃないですか、漸は私の男です。
絶対に誰にも奪わせたりしません。
たとえそれが、荒木田総理だとしても」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品