【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
第10章 抱かせていただいてもいいですか3
「呉服業界はいまや、狭い業界です。
直接でないにしてもどこかで繋がっていてもおかしくない。
三橋と直接取り引きをしているところが切られたくないがために、同じように圧力をかけたら……わかります、よね?」
黙って、頷いた。
理解したくなくても、わかる。
「金池様、覚えていますか?」
唐突に三橋呉服店で会ったお客の名前が出てきて、思わず顔を上げた。
「あの方はもちろん、ほかにもおじい様とお父様が作る作品を、きっと気に入ってくださる方を知っています。
そういう方に直接、有坂染色の作品を売ります」
「でも、それだけじゃ……」
売れる枚数はたかがしれている。
「ネット通販もしようと思います。
いまどき、問屋を介さないで売る方法なんていくらでもあるんですよ」
漸はそれですべて解決だ、みたいな顔をしているが、通販で高価な呉服が簡単に売れるとは思えない。
私だってネットで見ながら、何十万もするようなものをネットで買うような人がいるんだろうか、なんていつも思っているし。
「それに金池様に連絡したら、仲間内で販売会を行ってもいいと言ってくれました。
金額も最低ラインはおじい様たちに提示していただきますが、それ以上なら自分が出していいと思える価格で買ってくださるそうなので、単価が上がります」
「そんなの、いいのかな……?」
窮地に立たされても、助けてくれる人がいる。
漸のお父さんは最低だけど、人間全部が最低なわけじゃない。
「いいんですよ。
あとはときどき、ギャラリーを借りて展示会を行います。
明希さんも店を使っていいと言っていました」
「漸。
……ありがとうございます」
ぎゅーっと力一杯、漸の手を握り返す。
「鹿乃子さんが私のために、頑張ってくれたからです。
だから私も、鹿乃子さんのために頑張りたいんです」
眼鏡の奥から私を見る漸の目は、決意で溢れていた。
「それに有坂のご家族はもう、私の家族です。
家族を絶対に、不幸になんてしません」
力強く漸が頷く。
それがこんなにも、頼もしい。
「ありがとう、漸。
ありがとうございます」
ああ、私の決断に間違いはなかった。
私の家族まで幸せにしてくれる、最高の旦那様を私は選んだんだ。
「お礼なんていいですよ。
これだけ大言豪語しておいてあれですが、まだ上手くいくと決まったわけではないので」
決まり悪そうにぽりぽりと人差し指で漸が頬を掻く。
「ううん、きっと上手くいきます。
私も頑張るから……!」
大丈夫、漸がいる。
それに、金池さんだって。
漸には苦痛でしかない店での接客だけど、これで少しは報われるのかな……?
気持ちが落ち着いたので、晩ごはんの買い物に出た。
一週間、家を空けていたので冷蔵庫はほぼ空だ。
「ぜーん。
なに、食べますー?」
スーパーでふたり並んで買い物をすると、注目される。
ふたり揃って着物、しかも漸は私よりかなり年上。
仕方ないというものです。
「可愛い鹿乃子さんが作ってくれるものなら、なんでもいいですよ」
カートを押しながら、嬉しそうにへらっと笑われたって、困る。
「肉と魚はどっちがいいですかー」
しかしながら「なにが食べたい?」は選択肢になにがあるのかわからなくて答えに困るのだ、と訊いたこともあるので、少しずつ範囲を狭めていく作戦に出た。
「んー、魚ですかね。
こちらの魚に慣れると、東京の魚はいまいちで」
「なら、煮る、焼く、揚げるはどれがいいですか?」
話しながら魚売り場へと向かう。
スズキだといろいろ使えるからいいかなー。
「カニにしましょう!」
「……は?」
いきなり決定だと漸が小さく手を叩き、その顔を見る。
「私、よく考えたらこちらへ来て、まだカニを食べてないんですよ。
石川県といえば、カニが有名なのに」
漁が解禁されたばかりなので、店頭にはカニが並んでいた。
カニだけだとおかずにならないから、お鍋にしようか。
とか考えつつ、二杯くらいでいいかなと取りかけたけれど。
視界の隅で見覚えのある手が箱ごとカニを持ち上げた。
「……え?」
「え?」
直接でないにしてもどこかで繋がっていてもおかしくない。
三橋と直接取り引きをしているところが切られたくないがために、同じように圧力をかけたら……わかります、よね?」
黙って、頷いた。
理解したくなくても、わかる。
「金池様、覚えていますか?」
唐突に三橋呉服店で会ったお客の名前が出てきて、思わず顔を上げた。
「あの方はもちろん、ほかにもおじい様とお父様が作る作品を、きっと気に入ってくださる方を知っています。
そういう方に直接、有坂染色の作品を売ります」
「でも、それだけじゃ……」
売れる枚数はたかがしれている。
「ネット通販もしようと思います。
いまどき、問屋を介さないで売る方法なんていくらでもあるんですよ」
漸はそれですべて解決だ、みたいな顔をしているが、通販で高価な呉服が簡単に売れるとは思えない。
私だってネットで見ながら、何十万もするようなものをネットで買うような人がいるんだろうか、なんていつも思っているし。
「それに金池様に連絡したら、仲間内で販売会を行ってもいいと言ってくれました。
金額も最低ラインはおじい様たちに提示していただきますが、それ以上なら自分が出していいと思える価格で買ってくださるそうなので、単価が上がります」
「そんなの、いいのかな……?」
窮地に立たされても、助けてくれる人がいる。
漸のお父さんは最低だけど、人間全部が最低なわけじゃない。
「いいんですよ。
あとはときどき、ギャラリーを借りて展示会を行います。
明希さんも店を使っていいと言っていました」
「漸。
……ありがとうございます」
ぎゅーっと力一杯、漸の手を握り返す。
「鹿乃子さんが私のために、頑張ってくれたからです。
だから私も、鹿乃子さんのために頑張りたいんです」
眼鏡の奥から私を見る漸の目は、決意で溢れていた。
「それに有坂のご家族はもう、私の家族です。
家族を絶対に、不幸になんてしません」
力強く漸が頷く。
それがこんなにも、頼もしい。
「ありがとう、漸。
ありがとうございます」
ああ、私の決断に間違いはなかった。
私の家族まで幸せにしてくれる、最高の旦那様を私は選んだんだ。
「お礼なんていいですよ。
これだけ大言豪語しておいてあれですが、まだ上手くいくと決まったわけではないので」
決まり悪そうにぽりぽりと人差し指で漸が頬を掻く。
「ううん、きっと上手くいきます。
私も頑張るから……!」
大丈夫、漸がいる。
それに、金池さんだって。
漸には苦痛でしかない店での接客だけど、これで少しは報われるのかな……?
気持ちが落ち着いたので、晩ごはんの買い物に出た。
一週間、家を空けていたので冷蔵庫はほぼ空だ。
「ぜーん。
なに、食べますー?」
スーパーでふたり並んで買い物をすると、注目される。
ふたり揃って着物、しかも漸は私よりかなり年上。
仕方ないというものです。
「可愛い鹿乃子さんが作ってくれるものなら、なんでもいいですよ」
カートを押しながら、嬉しそうにへらっと笑われたって、困る。
「肉と魚はどっちがいいですかー」
しかしながら「なにが食べたい?」は選択肢になにがあるのかわからなくて答えに困るのだ、と訊いたこともあるので、少しずつ範囲を狭めていく作戦に出た。
「んー、魚ですかね。
こちらの魚に慣れると、東京の魚はいまいちで」
「なら、煮る、焼く、揚げるはどれがいいですか?」
話しながら魚売り場へと向かう。
スズキだといろいろ使えるからいいかなー。
「カニにしましょう!」
「……は?」
いきなり決定だと漸が小さく手を叩き、その顔を見る。
「私、よく考えたらこちらへ来て、まだカニを食べてないんですよ。
石川県といえば、カニが有名なのに」
漁が解禁されたばかりなので、店頭にはカニが並んでいた。
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