【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
第10章 抱かせていただいてもいいですか2
「……漸の家族が聞いた以上に最低だった」
漸の前でこんなことを言うのは悪いが、でも最低だった。
「漸が嫌だって言うのに無理矢理結納させて好きでもない人と結婚させようとするんだよ!?
しかも、嫌がる漸にホストどころか男娼みたいな接客させてさ!
漸の家に行ったら、私にだけお茶すら出さないんだよ!?
すみませんね、それだけ相手にもしたくない人間で!
湯飲み投げつけられるし、殴られそうになったし。
バンバン、ゴリラみたいに机叩いて威嚇してくるしさ!
でもあとで動物園行ったら、ゴリラの方が社会的でイケメンだったから、ゴリラみたいとか思ったの、ゴリラにあやまったけど!」
一気に捲したてて喉が渇き、湯飲みのお茶を一息に飲み干す。
「なんだ鹿乃子!
殴られそうになったのか!
いますぐ東京行って俺が……うっ」
祖父が腰を浮かせた途端、ごきっ!ともうお約束的に腰が鳴った。
「じいさん、無理すんな」
父に支えられ、祖父がその場に横になる。
ほかの家族はみんな私の勢いに面食らっていたが、漸はひとり、おかしそうにくすくす笑っている。
「ゴリラにあやまった、ですか。
確かに父より、ゴリラの方が上です」
笑いすぎて出た涙を、漸は眼鏡を浮かせて指の背で拭った。
「しっかし女に手を上げるような最低な人間なのかよ、漸の親は。
……いや、漸には悪いけどよ」
祖母が祖父の腰に湿布を貼る。
今日は軽かったみたいで、それでそろそろと祖父はまた身体を起こした。
「かまいませんよ、もう親ではありませんから。
戸籍は抜きましたので」
きっぱりと言い切り、漸が姿勢を正す。
「そこまで親と、縁を切りてぇのか」
「はい。
あの人たちと血が繋がっていると思うだけでおぞましいので、できることならこの血を全部、入れ替えてしまいたいくらいです」
「……」
漸の決意がわかったのか、祖父はそれ以上なにも言わなくなった。
「……まあ、俺たち職人を大事にしない人間だしな。
そういう人間と縁が切れて、よかったってことだな」
ぽつりと呟き、祖父はパリンと最中を囓った。
父と祖父にだけ話があると、漸たちは工房へと移動した。
「心配させるから、鹿乃子にだけは絶対に言うなって言われたんだけど」
母が新しいお茶を淹れてくれる。
「馴染みの問屋さんから突然、取り引きを切られて。
理由を訊いても後生だからなにも訊かないでくれ、って言われたみたい」
「え……」
それって、私が三橋の家から漸を奪ったから?
漸のお父さんは有坂染色を潰してやると言っていると、漸から聞いた。
一呉服屋にそんな力はないと思っていた。
でも、現実は。
「大丈夫なの?」
「方々に話を持っていっているけど、どこもダメみたいなのよね……」
はぁーっと、母が重いため息をつく。
これって、私のせいなのかな。
しばらくして漸たちが戻ってきた。
夕飯は食べて行けと言われたけれど、そんな気になれなくて家路につく。
「……鹿乃子さん?」
助手席でずっと私が黙っていて、漸は心配そうだ。
「……私のせいで有坂染色はなくなるんですか」
漸を幸せにすると誓った。
でもその代償がこれだなんて、あんまりだ。
「なくなりませんよ。
私がなくさせたりしません」
「でも!」
「鹿乃子さん!」
漸が大きな声を出し、びくっと大きく肩が跳ねた。
「落ち着きましょう?
家に帰ったらお話ししますから」
「……はい」
真っ直ぐに前を見て運転する漸は、こんな状況なのに少しも揺るいでいなかった。
家に帰り、漸がコーヒーを入れてくれたけれど、手をつける気になれない。
「父が問屋や工房に圧力をかけたんです。
有坂染色と繋がりのあるところとは今後二度と、取り引きをしないと」
隣に座った漸が、そっと私の手を握る。
漸の前でこんなことを言うのは悪いが、でも最低だった。
「漸が嫌だって言うのに無理矢理結納させて好きでもない人と結婚させようとするんだよ!?
しかも、嫌がる漸にホストどころか男娼みたいな接客させてさ!
漸の家に行ったら、私にだけお茶すら出さないんだよ!?
すみませんね、それだけ相手にもしたくない人間で!
湯飲み投げつけられるし、殴られそうになったし。
バンバン、ゴリラみたいに机叩いて威嚇してくるしさ!
でもあとで動物園行ったら、ゴリラの方が社会的でイケメンだったから、ゴリラみたいとか思ったの、ゴリラにあやまったけど!」
一気に捲したてて喉が渇き、湯飲みのお茶を一息に飲み干す。
「なんだ鹿乃子!
殴られそうになったのか!
いますぐ東京行って俺が……うっ」
祖父が腰を浮かせた途端、ごきっ!ともうお約束的に腰が鳴った。
「じいさん、無理すんな」
父に支えられ、祖父がその場に横になる。
ほかの家族はみんな私の勢いに面食らっていたが、漸はひとり、おかしそうにくすくす笑っている。
「ゴリラにあやまった、ですか。
確かに父より、ゴリラの方が上です」
笑いすぎて出た涙を、漸は眼鏡を浮かせて指の背で拭った。
「しっかし女に手を上げるような最低な人間なのかよ、漸の親は。
……いや、漸には悪いけどよ」
祖母が祖父の腰に湿布を貼る。
今日は軽かったみたいで、それでそろそろと祖父はまた身体を起こした。
「かまいませんよ、もう親ではありませんから。
戸籍は抜きましたので」
きっぱりと言い切り、漸が姿勢を正す。
「そこまで親と、縁を切りてぇのか」
「はい。
あの人たちと血が繋がっていると思うだけでおぞましいので、できることならこの血を全部、入れ替えてしまいたいくらいです」
「……」
漸の決意がわかったのか、祖父はそれ以上なにも言わなくなった。
「……まあ、俺たち職人を大事にしない人間だしな。
そういう人間と縁が切れて、よかったってことだな」
ぽつりと呟き、祖父はパリンと最中を囓った。
父と祖父にだけ話があると、漸たちは工房へと移動した。
「心配させるから、鹿乃子にだけは絶対に言うなって言われたんだけど」
母が新しいお茶を淹れてくれる。
「馴染みの問屋さんから突然、取り引きを切られて。
理由を訊いても後生だからなにも訊かないでくれ、って言われたみたい」
「え……」
それって、私が三橋の家から漸を奪ったから?
漸のお父さんは有坂染色を潰してやると言っていると、漸から聞いた。
一呉服屋にそんな力はないと思っていた。
でも、現実は。
「大丈夫なの?」
「方々に話を持っていっているけど、どこもダメみたいなのよね……」
はぁーっと、母が重いため息をつく。
これって、私のせいなのかな。
しばらくして漸たちが戻ってきた。
夕飯は食べて行けと言われたけれど、そんな気になれなくて家路につく。
「……鹿乃子さん?」
助手席でずっと私が黙っていて、漸は心配そうだ。
「……私のせいで有坂染色はなくなるんですか」
漸を幸せにすると誓った。
でもその代償がこれだなんて、あんまりだ。
「なくなりませんよ。
私がなくさせたりしません」
「でも!」
「鹿乃子さん!」
漸が大きな声を出し、びくっと大きく肩が跳ねた。
「落ち着きましょう?
家に帰ったらお話ししますから」
「……はい」
真っ直ぐに前を見て運転する漸は、こんな状況なのに少しも揺るいでいなかった。
家に帰り、漸がコーヒーを入れてくれたけれど、手をつける気になれない。
「父が問屋や工房に圧力をかけたんです。
有坂染色と繋がりのあるところとは今後二度と、取り引きをしないと」
隣に座った漸が、そっと私の手を握る。
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